<研究の意義と目的>
奔驰宝马游戏大厅_电子游戏APP下载-【唯一官网首页】が「3.11」に関して、機関として行ってきた研究-厚生労働省老人保健健康増進等事業『複合大規模災害地域の高齢者福祉に関する総合的調査研究事業』(2011年度)及び、文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業『東日本大震災を契機とする地域の健康福祉システムの再構築』(2012年度~2016年度)-は、その出来事の作用因と物理工学的な対応策に関してではなく、人の生存と地域社会の存立に対する諸衝撃とそれらに対する諸対応や諸対策に焦点をあてるものであり、それらの研究課題は、『集中復興期間』を終えることによって、その討究が完了するものではない。
「災害をめぐる世界」と「健康福祉をめぐる世界」とは相似的な性格をもっていて、いずれも問題発生の作用因が突発的であろうと徐々に進行するものであろうと、人々や地域にとっては不意打ち的、不可逆的に生ずる惨禍や境涯を克服しようとする苦闘の世界であり、「生きるとは何か」の問いが中核に潜んでいる。特に、人々の生存と地域の存立のための基本的諸条件に対して壊滅的な衝撃を与える「大災害」は、日常生活を崩壊させて我々の見る光景を一変させるだけでなく、当然視してきた「日常なるもの」の実相とその思考前提を白日の下に曝し、我々に実践的?知的挑戦を課す。しかし、事態の推移は、諸問題の解決と付加的諸問題の発生とが表裏をなす矛盾的過程であり、「大災害」の発生当初には、その衝撃よって、従来思考法からの転換の可能性が開かれたとしても、災禍の多相的諸問題への諸対応や諸対策の仕方が従来通りであれば、それらが識閾となってその可能性は閉じられてしまう。
「大災害」はその衝撃を受ける人々や地域社会が自らの資源のみを使って対処するにはその能力をはるかに越えているため、政府による対策の『集中復興期間』が設定される。しかし、そこでは、「大災害」は出来事、つまり無比の突発的な極限状況として捉えられ、その対応策は明確な始まりと終わりをもつ一連の作業過程として継起的に順序づけられるものとして、局面別に優先されるべき問題と作業の手順の決定、それらの各作業の達成度の評価をもって終える。反面、この期間は、被災者や被災地に密着してみると、犠牲や被害の示差的偏在、負の連鎖、対策如何によって生ずる不条理等が伏在し、事実的要素と心理的?思考的要素が反照し合う、複雑な社会的政治的諸過程である。
『集中復興期間』の終了からさらに全『復興期間』の完了までの間には、それまでの諸対策の進行における遅速や抜け落ちの是正が図られると同時に、緊急的な極限状況への対応や対策が平常時の問題対応装置へ、公的な問題対応から私的問題対応に委ねられる。しかし、「大災害」は単独の出来事としてではなく、被災者や被災地の暮らしはより大きな政治的?社会的?経済的?技術的諸文脈中に埋め込まれていて、発災時にはそれらの実像が可視化されるが、「復旧」?「復興」の進展に伴って、不可視化されてしまい、諸対策は現状維持の補強に終わりがちとなる。
奔驰宝马游戏大厅_电子游戏APP下载-【唯一官网首页】は、「3.11」が発生した直後の2011年(平成23年)3月28日付で『東日本大震災と大学』という表題のアピールを世に問うたが、その中で「今回の災害がわれわれに課した厳しい試練に忍耐強く立ち向かう」と宣言している。そして、戦略研究プロジェクトが掲げる「健康福祉システムの再構築」が条件依存的であるとしても根本において「人間を人間的たらしめているものを否定せずに人間を扱うシステムの再構築」を意味するとすれば、そのプロジェクトは未だ緒についた段階にあるにすぎない。「3.11」がもたらした不可逆な実存的状況に正面から向き合うためには、広い文脈を設定して、その事態の推移の一部始終を忍耐強く追跡することが必要であるだけでなく、被災現場への介入や参与観察を通じて、逆に反照して映し出される研究者自身の姿、自らの思考前提や実践方法の再検討が迫られるからである。
本研究プロジェクトの目的は、これまでの研究作業やボランティア活動を通じてラポートの設定ができた諸地域や諸団体を主たる対象に、『集中復興期間』後の被災者?被災地における「3.11」の余波と個人、家族、地域の命運を追跡し、その作業を通じて見出される克服すべき諸問題の問題連関?性格と対応諸策の性格や副作用の把握や知見の獲得と、従来思考法や実践の再考との相互作用をふまえ、「3.11」の衝撃によって消失あるいは機能停止した諸施設の再建を越えて、事態の進行の渦中にあって、見出される諸問題の可視化と不可視化、既決と未決の振り分けを通じ、改めて、『地域の健康福祉システムの再構築』を如何に図るべきかを展望することにある。