【現場から現場へ】
[実習生を迎える]
社会福祉援助技術現場実習(児童養護施設現場実習)に向けて
社会福祉法人聖母会 児童養護施設 天使の園 指導部長
渡辺 憲介
社会福祉実践は,利用者の自己実現,諸欲求の充足を援助する専門的援助活動です。この援助活動に活用される技術がソーシャルワークと呼ばれる技術体系です。この技術体系は教室で講義や演習の形態でも観念的に学ぶことはできます。しかし,観念として学んだ知識?技術を実践に転化させることは容易ではありません。この知識?技術の修得に向けては,実際の援助場面で,ソーシャルワーカーの働きを観察したり,実際に利用者と関わるなかで援助技術を試行したりする体験学習をする場を欠くことはできません。もう少し具体的にいうならば,(1)ソーシャルワークの価値の具体的表現や実践的な知識?技術の活用方法等を理解すること,(2)援助における自己理解の必要性に気づくこと,(3)利用者との援助関係の形成を体験することなどを現場で体験的に学ぶことが,この現場実習の大切なポイントなのです。
私が勤務している児童養護施設は,児童福祉法第41条にある児童福祉施設で「保護者のない児童,虐待されている児童その他環境上養護を要する児童を入所させて,保護し,あわせてその自立を支援することを目的とする施設」です。具体的にいうと棄児,親の死亡,行方不明,離別,入院,拘禁,虐待,酷使,放任など家庭で養育できない場合,または家庭で養育することが子どもの福祉に反する場合に,児童相談所の措置により入所する施設となります。子ども自身の問題というより,養育環境上の問題による入所が多いために,施設ではまず,心身を安定させるとともに,健全な社会人となるための自立支援に取り組んでいます。入所する児童の理由は本当にさまざまなものがあり児童養護施設職員はどのような問題にも対応していくだけの高度な専門性が必要となっています。最近は,虐待を受けて入所してきた子どもたちが,どこの児童養護施設でも高い割合を占めています。
実習の具体的な学習の内容としては,下記の8つのようなことを学んでほしいと思います。
- 施設の現状と施設の役割を理解してほしい
児童養護施設に入所してくる子どもの家庭背景や入所に至る過程を理解するなかで,施設が子どもに対してどのような自立支援のプログラムが準備され,どのようにプログラムが展開されているかを理解する。
- 入所している子どもの生活場面の観察と援助
入所している子どもが集団での場面や個人として,日常生活をどのように過ごしているかを観察し理解する。
- 指導員,保育士および他職種の業務を理解してほしい
子どもたちが家庭復帰や社会自立を援助していく指導員,保育士,他職種の間でどのような連携がなされているのかを理解する。
- 職員会議,ケース会議を傍聴
職員会議やケース会議に出席させてもらい,職員会議における職員集団がどのように子どもの問題,施設運営について考えているのか,ケース会議での子どもの見方,対処の仕方について理解する。
- 親,家庭指導の観察と理解
子どもにとって親の存在はどんな事情があれ,大きな存在です。結果的に親の事情で施設に入所させられた子どもたちであるが,面会,外泊等の機会を通して親子関係の修復や家庭の立て直しを援助している場面に同席等をさせてもらい,子ども,親,職員のそれぞれの気持ちを聞き,施設が行っている親,家庭への指導を理解する。
- 施設における自立支援とアフターケアの取り組みの実際を学ぶ
施設を卒業する子どもの多くは家庭に戻らずに自立をするケースが多くなっていますが,施設では自立支援(入所中におけるリービングケア「卒業後の自立のために卒業1年前くらいから社会自立のための取り組みの指導」を含めて)にどのように取り組んでいるのかを学び,その後のアフターケアへの結びつきを理解する。
- 専門機関,地域社会,学校との関係を理解してほしい
児童相談所,地域社会,学校とのかかわりの状況について理解するとともに,施設が抱えている問題?課題等について理解する。
- 児童養護施設の勤務状況の実態を理解してほしい
入所する子どもたちの精神的な不安定さを解消するためにどうしても職員の勤務時間に延長を伴うことが多い。そんな施設の勤務形態を実際に体験するなかで将来に対する仕事の姿勢を理解する。
現場実習にあたり,いろいろと書きましたが,現在,児童福祉法改正に伴い児童養護施設でも今まで児童相談所がもっていた相談機能が,各市町村が代わって相談業務を行うことになるなどの大きな変化がありますので,そのような状況も理解したうえで実習に臨んでください。