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VOL.44 JUNE 2007

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[精神保健福祉論] ゴールデンウィークの中でのスクーリングから

准教授 阿部 正孝

 5月初旬,それまでの幾分肌寒い気候から夏の到来の前兆かなと思わせるような日差しの東京で,駒澤大学の教室を借りてのスクーリング(講義)を行いました。
 キャンパス内は普段は学生がいっぱいで往来が混雑しているのでしょうが,この日は連休の真っ只中でキャンパス内に人の気配はまばらでした。
 教室内に入ると,皆さんの緊張が少し伝わり,つい私も身の硬くなるのを感じました。しかし,私にしてみれば,また新しい学生さんと出逢えることを楽しみに出張講義を行うので,心地よい緊張といった感じでしょうか。
 3日間の講義が終わり,最後の試験を残して学生の皆さんより一足早く東北新幹線に乗り込みました。連休中ですが,連休後半なので人の流れと逆方向の東北方面に行く折,混雑はないだろうと思いきや,東京始発にもかかわらず,やっとの思いで空いていた一席に座ることができました。年老いた体をどっかと腰を下ろしたら,混雑とは違った何か心に引っかかるものが脳裏をよぎりました。
 実は今回のスクーリングでレポートの取り扱いに1コマ割いて,レポートに関する説明をさせていただきました。そこでの出来事が私の頭の中からどうしても離れないのだろう……。嬉しいことと,悲しいこととが……。

 嬉しいことの一つは「レポートの書き方について」よく皆さんと話し合いができ,私の意図することが伝達できたことです。

 その概要は
 (1) レポート課題集を参考にすること
 (2) 注釈がいっぱいあったほうが良いこと(参照箇所に数字[1)など]をつけること)
 (3) 最後に自身による考察を600字くらいでまとめたほうが良いこと
 (4) 参考文献は著者?『書名』?発行所?発行年?利用頁の記載をすること
 私が話をしている間に一生懸命にメモを取る姿は,「あぁ,皆さん必死なんだ」と,つい自分のいい加減さを自戒するのに十分な皆さんの真面目さでした。科目によって必ずしもレポートに共通性があるわけではないのに,私が説明したことを忠実に実行しようとする皆さんの真摯の姿から,「普段からレポートにきちんと向きあっているんだなぁ」と再確認させられました。もう少し皆さんが書きやすいように頑張らねば……。内なる心から湧きあがるものを感じました。皆さんから新たなパワーをいただいたことは,私にとって大きな喜びでした。

 もう一つ,悲しいことも新幹線を降りるまで,頭から離れませんでした。「レポートの書き方について」の話し会いをしていた時に,いつかある人からこっそり教えていただいたことがあります。「進級(卒業)させないための門番?番人」に私がなっていることを……。
 仙台出発前は巷の風説と想い,特に気にも留めてはいませんでしたが,皆様と接していくなかで,レポートを授業の一環と思っているのが教員側だけであることに気づき,レポートは私と皆さんで築く合作の物語りであると信じていた自分の気持ちが崩れていくことを感じました。
 いつも皆さんのレポートをわくわくして読ませていただいてきました。「今回はどう書いてくれたかな?」「前回の指摘を理解してくれたかな?」そんな期待があるからこそ,これまではレポートを通して授業ができたと思っていました。一人ひとりの可能性を創造し,「もう少し調べてもらおう!」「こんな視点を持ってもらったらどうなるだろう!」前回の指摘を反映し書きあがったものを見させてもらったとき,面倒でも「一緒にやってよかったなぁ」と……。見たことのない人と心が通じたような爽快感が走り,添削を終えた後に一人飲む真夜中のウィスキーは格別でした。
 単なる添削と評価なら何も昼間の研究室で十分であったのかも……と,思いながら,私はおそらく皆さんが苦労しているであろう夜の時間帯に苦心のレポートを見ることにより,共に授業しているような妄想を持っていたのかもしれません。しかし,レポートを小テスト?中間テストと捉えている人が数多くいることを,今回感じとることができました。そして同時に,多数の苦しんでいる人がいることも感じました。悲しませるつもりでやっているわけではありませんが,レポートに対する認識の乖離は私の心に少しの衝撃を与えました。
 私の妄想と別れてレポート授業のあり方を考えないと,学生の皆さんにますます鬱積が貯まるようですね。少し考えてみましょう!
 しかしながら,レポ-トが教師と学生の授業の「場」でなく,単なる通過点なら,どこで授業をしたら良いのでしょう。私は学生の皆さんと何らかの「機会」と「場」でやり取りをする教師でありたいと思っています。精神保健福祉論は「密なる関係性」の学問であり,現在騒がれている「希薄な関係」への挑戦の学問です。
 そんなことを考えながら自分の無学と無力さに悲しみを覚えました。
 仙台に着いたら,出発したときにわずかに咲いていた東北福祉大前駅の八重桜さえ,帰ったら葉桜になっていました。家に着いたら夜9時過ぎ,机の上にはレポートがありました……。

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