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VOL.55 NOVEMBER 2008

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[学生MESSAGE] 精神保健福祉援助実習を振り返って

福祉心理学科 柴田 育美

 大学に入学した5年前,私は精神障害者と直接交流したことがありませんでした。当時私は,児童虐待に強い関心があり,虐待をしてしまう人の心理,その人の話を聞くために必要な「話を聞く側の準備」などの学習がしたく,大学で学ぶことを決めました。そして,何も知らなかった私の前に,大学に入学した途端にさまざまな情報,課題が現れました。その中に精神保健福祉士という資格があったのです。虐待をする人の心は健康的ではないのでしょう。精神保健福祉士は広い意味で心の健康を取り戻す手伝いをすることではないかと考え,精神保健福祉士を目指すことを決意したのです。
 私の実習先は,病院と地域生活支援センターでした。はじめは自分のこれまでの子育て支援活動で顔見知りのいる保健センターを希望しました。しかし担当者に障害者自立支援法の施行以後,実際の精神保健活動の現場は市町村に移ってしまい,保健センターではあまりよい実習はできないだろうと言われました。そこで次に選んだのが,地域生活支援センターでした。私の市には授産施設はなく,病院での実習にはとても自信がなかったので,第1希望,第2希望共に,隣の街も含めた地域生活支援センターを選び,病院は消極的に第3希望としました。とにかく,「精神障害者を知らない」ということが実習に際して非常に不安に思うところでして,実習での大きな目的も「精神障害者を知ること,精神障害者の生活を知ること」でした。しかし,この第3希望の病院が最初の実習先となったのです。決まった当初は,精神障害者とはどのような人たちなのか,体験学習で行った比較的症状の安定した方々が集まる作業所での経験しかなく,とても不安に感じていました。その不安については,事前指導の志村先生や,巡回指導の先生とお話をし,とにかく謙虚に学ばせていただこうという気持ちで,不安を抱えつつの実習開始となりました。消極的に選んだ病院実習でしたが,ここで精神保健福祉士という仕事の大切さ,面白さを知ることとなり,自分の中に新しい世界を広げる貴重な体験となりました。
 病院実習を始めてすぐに,「診断について」が大きな疑問となりました。精神科では内科,外科と違い,検査で異常値が出たから入院,正常値に戻ったので退院というわけにはいきません。病棟実習において,見る限りでは症状が落ち着いているような方でも,症状の波の大きさゆえに退院できない,また家族の支援の足りなさから症状は落ち着いているのに退院できないという場合が少なくなく,退院の決め手は「退院した先で生活ができるかどうか」であると考えるようになりました。このことは教科書やスクーリングなどを通して知識として理解してはいたのですが,現場を見て,初めて知ったような感じでした。現実と知識が一致したということだったのかもしれません。
 そして,このことを実感してからは,精神保健福祉士の仕事は精神障害者の人生に大きく影響することがわかりました。医師の治療,投薬だけで症状を継続的に安定させるには限界があり,環境を整えることは,精神障害者の生活にとって非常に奔驰宝马游戏大厅_电子游戏APP下载-【唯一官网首页】なことであり,精神保健福祉士の役割なのです。もちろん,精神保健福祉士がどこで働くかによって役割は大きく違うと思いますが,どこで働こうとも,精神障害者の生活環境を整えるという点は,どの立場でも同じように思います。実習中指導して下さった精神保健福祉士,看護師,作業療法士の方々に素直に疑問を話してみると,皆さんそれぞれの立場で答えて下さいました。
 実習ではたくさんの経験をさせていただきました。隔離病棟,急性期病棟,療養病棟で丸一日何の仕事もなく過ごしたことは,精神障害という病気を知る上でよい経験になりました。患者の皆さんと同じリズムで一日を過ごしてみて,多くを感じることができました。また,家族との関わりも非常に奔驰宝马游戏大厅_电子游戏APP下载-【唯一官网首页】な役割であるということを知りました。病識のない患者さんを治療へ結びつけるための家族との面談,治療中の家族との面談,退院を勧めるために家族に病気についての理解を深めてもらう努力,協力を得るための努力,もちろん患者さん本人との面談,医師と治療方針の話し合い,退院後の訪問看護,金銭的な問題を抱える患者さんも多く,生活保護や障害認定など公的援助を受けるための手続きの相談や手伝い,福祉事務所の方との面談,生活訓練のための買い物の同行など,本当に何でも経験させていただきました。新しい経験をすることが少なくなってきた年齢ですが,この実習では非常に多くの新しい体験をすることができました。
 そんな中で一番強く印象に残っているのは,まったく病識を持たずに生活してきた方で,配偶者から奇異な行動があると相談を受け,何とか治療に結びつけ入院となったAさんです。始めは配偶者との面談を繰り返し,治療の必要性を説明し,そして治療のために病識のないAさんをどうやって病院に連れてきたら良いのかを考えました。無理やり連れてくることは退院後の家族関係に障害を残してしまうこと,本人になんとか病気と向き合ってもらうことが,治療,そして再発防止への奔驰宝马游戏大厅_电子游戏APP下载-【唯一官网首页】なポイントであることを知りました。配偶者からの電話相談,配偶者の病院見学,入院相談,入院に結びつける診断に至るまでの段取りなどをいかに効率よく,信頼関係を築きながら行うか,医師との調整,病棟との調整,家族の調整など,Aさんにとって一番負担の少ない状況で診断に結びつけるために,精神保健福祉士はいくつものことを同時に考え,判断していかなければならず,責任の重い仕事であることを知りました。
 その一部始終に同行させていただき,私個人の感情,事実確認,配偶者の感情,Aさんの思いなどが,私の中で混乱してしまいました。精神保健福祉士は相談者の話を傾聴しながら,共感,そして事実確認,評価を行い,問題のポイントを整理して,客観的な判断をしなければなりません。そこで出てくる精神保健福祉士個人の感情処理や気持ちの整理も奔驰宝马游戏大厅_电子游戏APP下载-【唯一官网首页】なことであり,そして難しいことであると思いました。私はすっかり,相談にいらした配偶者の気持ちに偏り,Aさんの気持ち,客観的な事実確認を含め,自分の気持ちの整理がまったくできていませんでした。
 このように実習については非常に意義深いものでしたが,実習に出るまでには非常に苦労しました。本来半年前に実習を行う予定でしたが実習に出るための単位が足りず,半年延びてしまいました。実習に出るためには演習を受ける必要があり,この演習を受けるためにはまた条件があり,しっかり学習計画を立てておかなければいけません。常にぎりぎりで何とかしのいできていたのですが,実習に出るために必要な卒業要件の90単位の取得に1単位足りなかったのです。きっちり90単位そろえたつもりでいたのですが,演習の単位は卒業要件に含まれないことを知らず,1単位不足となってしまったのです。また,意外に苦戦したのが「精神保健福祉援助実習課題ノート」の完成です。刻々と変わっていく制度,法律を常に新しい情報を追いながら仕上げるのは大変でした。しかし,実際実習に出てみると,このノートで学習した内容は現場では当たり前の知識で,さまざまな場面で当然のように会話に登場していました。「そういえば聞いたことがある」程度の知識で何度も恥ずかしい思いをしました。試験のために覚えなければいけない知識だと思っていましたが,実際に目の前で必要に迫られ,私達が勉強しているのは本当に最低限のことなのだと大いに焦りました。
 そして最後に,充実した実習を送ることができたのは,担当していただいた精神保健福祉士の方々のお陰だと思います。忙しい毎日のなかで,丁寧に私の疑問に答えてくださり,実習ノートにコメントをいただきました。毎日のコメントは,実習の励みになりました。実習生という立場は皆さんのお仕事のお邪魔をしながらであることを忘れてはならないと思います。これから実習を行う方々が充実した実習を行えるよう,心から応援しております。

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