VOL.13 OCTOBER 2003 【学習サポート】
【現場から現場へ】 【11月科目修了試験のご案内】 【ビデオ?スクーリングのご案内】 【秋期スクーリングIII?IVのご案内】 【通信制大学院コーナー】 【お知らせ】
【BOOK GUIDE】 |
【学習サポート】[心理学実験 I ] 心理学実験 I をふりかえって福祉心理学助手 「心理学実験 I 」のスクーリングを受講された皆様,4日間毎日遅くまでお疲れ様でした。実験を進めレポートを書き終えることに追われて,じっくり考える暇がなく残念,という声もいただきましたので,この場を借りて,ちょっとふりかえってみました。 Q.佐藤俊昭先生の「長期記憶の検索」は,「検索方略」を用いるか用いないかによって,10分間に思い出した数がどう変化していくのかを見ていきました。この実験は他の人と比較したり,平均を出したりしなかったのですが,それでも実験と呼んでよいのでしょうか。 A.はい。これも立派な実験です。 Q.今回の実験では,心理学の理論がまず自分自身に当てはまるかどうかを考えてみることが大事ということですね。でも,私自身のなかに見出された法則が他の人にも当てはまっているかどうかは,どうしてわかるのでしょうか。 A.そういう疑問をもって,実験にのぞむのはいいことですね。(1)他の人に当てはまるかどうか,(2)何回やっても,また別の状況でやっても私自身に当てはまるかどうかなどは,この実験だけではわかりません。そういう疑問が出たら,次の実験を計画していくのが,研究を進めていくということです。 Q.この実験で他の人のデータを寄せ集めて平均を出さなかったのは,何か意味があるのでしょうか。 A.今回のような日常的な素材を用いた場合であっても,個々人がそもそも持っている記憶量には差があります。つまり「個人差」の要因が大きいわけです。このような場合,単純にデータを平均化してしまうと,個々人の持つデータ本来の意味が薄れてしまう恐れがあります。単一事例実験は,複数の被験者のデータを集めて処理した際に生じてしまう「被験者間のばらつきの影響」という問題を回避できる長所があります。したがって,今回のような目的の実験には適した方法だと言えます。 Q.あと,最初に「方略なし」をやった後に「方略あり」をやったので,「方略あり」のときに「方略なし」で思い出した言葉が記憶に出てきてしまったのですが……。 A.このことも「実験計画」を考えるうえでは大切なことです。それを防ぐためには,(1)「方略あり」の後に「方略なし」を行うグループと逆の順序で行うグループを分ける,(2)「方略あり」を行うグループと「方略なし」を行うグループに分ける,というようなことをすればよいのです。ただし,いずれの場合も「標準化」などのデータ修正を行う必要があるでしょう。また,グループに分ける場合は,2つのグループが等質であることを厳密には考えていかないといけません。 Q.あと,意外にものごとは思い出せないなぁと感じたのですが。 A.そうですね。実験を通じて,人間の「記憶」の不思議にめざめていただいて,教科書や他の本をどんどん読んでいただければ,と思っています。繰り返し出てくる名前は思い出せるとか,「記憶のネットワーク」をつくりあげれば思い出しやすくなるとかは,試験対策にも使えるかもしれません。 Q.他の実験には,どんな意味があったのでしょうか。 A.たとえば「触2点閾の測定」では,人間の感覚に「閾(いき)」というものがあることを肌で感じてほしかったというものがあります。刺激が一定以上の大きさ(この場合は「2点間の幅」)になれば2点と感じるのに,それ以下だと1点としか感じないということは不思議ですね。でも,「視覚」でも「聴覚」でも「閾」というものはあります。それから閾には,幅がありましたね。その中央の値を「閾値」と定義づけしています。 Q.「背景色の効果」では,そのグループの人の平均や標準偏差を出しましたが,これは意味があったのでしょうか。個人によって,あの女性の表情を「心が狭い?広い」と感じるか「ふまじめな?まじめな」と感じるかは,随分開きがあったのではないかと思うのですが……。 A.多くの人から集めたデータを比較する時,私達はまずそのデータがどのような特徴を持っているのか(どのような分布になっているのか)に注目する必要があります。例えば算数のテスト結果を元にして,あるクラスと他のクラスとの間に違いがあるかどうかを調べる場合を考えてみてください。どちらのクラスも平均点は50点だったとします。ですが,ひとつのクラスではいろんな点数をとる人がいて(点数の分布はなだらかな丘のような形になります),もうひとつのクラスでは多くの生徒が平均点に近い点数をとっていた(点数の分布はそびえ立つ山のような形になります)とします。こうなると,単純に平均点だけをみて「2つのクラスの生徒は等質である」と考えるには無理があります。そこで,平均以外にもデータのばらつき具合を示す標準偏差(SD)やデータが最も多く見られる場所を示す最頻値などの「代表値」を確認する必要があります。この中で,特に平均や標準偏差はデータの特徴を概観するための最初のステップとして,多くの場面で算出されます。 Q.もうひとつ,平均の差がどの程度あったら違っているといえるのでしょうか。たとえばある印象評定項目で,黒と黄色の平均値がそれぞれ-0.82と0.73,標準偏差がそれぞれ1.52と1.68だったとします。このときは黒と黄色に差があったのでしょうか,なかったのでしょうか。 A.黒と黄色の平均点の差は1.55で,5段階評定としては比較的開きが大きめですね。でも標準偏差をみると,どちらの色の場合もばらつきが多いように思います。これを仮にグラフに描いてみると,二つの山が重なり合っている部分が大きいことに気づくでしょう。こうなってくると,平均点の差の開きほどには,実際の二つの背景色の効果の違いは現れにくかったのでは,と考えられます。この結論をより厳密に確認するためには「t-検定」や「分散分析」などの「平均値の差の違い」を測る「統計検定」を行いますが,心理学実験 I の段階では,まだ心理学を学び始めたばかりですので,平均の差と標準偏差から考察していただければ,と思います。 Q.「背景色の効果」の実験では最終的にどういう効果があるといえたのでしょうか。 A.そのあたりは次回以降に小松先生にお伺いしてみましょうか。 お忙しいなか,ありがとうございました。 (次回に続く) |