【現場から現場へ】
[実習生を迎える] 社会福祉援助技術現場実習にむけて
高齢者総合ケアセンターこぶし園 総合施設長
小山 剛
◆1 運営者の立場から
私が運営している高齢者総合ケアセンターこぶし園では,サポートセンター(小規模多機能居宅介護のモデルのひとつで,施設の持つフルタイム?フルサービスを地域社会に展開するシステムのこと)という在宅サービスを中心とした事業を16カ所で展開しており,医療系?介護系?食事系?相談系?事務系など350名ほどのスタッフが働いています。
ここを実習に訪れる人たちは大学院生からホームヘルパー2級まで幅広く,年間で2,500人位になりますし,これに加えて小中学生が1,500人位,ボランティアが5,000人位,そして見学者も10,000人位と大変多くの人たちが交差しています。この中で利用者の皆さんの生活の近くに行けるのは実習生と一部のボランティアだけで,他の皆さんは建物の共有部分だけの見学や,利用者の皆さんがボランティアとして来訪者のお相手をしていただいています。
そんななかで,私の使命は運営者の1人として,これから利用者を支えようとする人たちを育てなければならない反面,利用者個々のプライバシーを守りながら快適な生活を支えなければなりません。ですから実習生の皆さんには守っていただきたいことがいくつかあるのです。
◆2 基本的な接し方
対人援助技術などを学ぶとか,知識やテクニックを考える前に,一般的に初めて出会う人と接するときに守らなければならない社会的なルールがあります。
それは第一に,初めて出会う人に対して「無言でいきなり近づかない」ということで,誰だって知らない人がいきなり近づいてきたら怖くて逃げ出したくなります。ましてや車椅子に乗っていたり,ベッド上で動けない方ならなおさらのことです。ですから利用者の方に近づく前に「自分がどこから,何をしに来た,誰か」を説明しなければなりませんし,もちろん勉強のために訪問した実習生のほうから名乗るのが当たり前であることはいうまでもありません。
そして相手の緊張を解く意味でも,笑顔であることが当たり前です。無表情や変な顔をした,知らない人がやってきたら誰だって嫌でしょう。
第二は目線の位置を合わせるということです。通常お母さんが子どもを叱る時は立ったまま高い位置から低い位置にいる子どもに向かいます。逆にほめるときは抱き上げるか,お母さんが低い位置にいる子どもの目線に合わせます。つまり車椅子を利用されていたり,ベッド上におられる方々に対して実習生が立ったままの姿勢で話しかけるということは,上から見下ろす形になり相手に不快感を与えてしまうということです。自由に動けるこちら側が相手の目線の位置に合わせることが当然の姿勢です。
◆3 秘密を守る
現場実習ではそれまでの活字や言葉からの情報ではなく,目の前の利用者の生活全般にかかわるさまざまな情報を得ることになりますし,特に相談員はその人の人生を知る機会が一番多い職種です。
そしてその知りえた情報をもとに,その人が抱えている課題解決に対して支援をするのが相談員の役割ですから,その知りえた情報というものは,その人の課題解決のため以外に使われることはありません。
また利用者が見せたくない,あるいは隠しておきたい自らの人生の内側を私たちにさらけ出すのは,抱えている課題を解決したいためですから,私たちが解決できないことであるならば,その情報に触れる必要はありません。
まして皆さんがかかわるのは,その人のためではなく,自らの実習のためですから,皆さんを育てることに協力して下さる利用者の皆さんからの情報の取り扱いについて,真摯な気持ちを忘れずに,そして秘密保持が絶対原則であることを肝に銘じて下さい。社会福祉士には秘密保持について罰則規定がありますが,罰則規定があるから秘密を保持するのではなく,職業倫理として当たり前のことはいうまでもないことです。
◆4 おわりに
現場実習ではこれからの学習に対する課題が多く発見できるでしょうし,なによりも自分の知らなかった自分自身に気付くことになると思います。
それは,「人は人を鏡として自分を映す」ということですから,このチャンスを逃さず,等身大の自分自身に気付いてください。
実りのある実習になることを期待し,次の言葉を送ります。
“Practice makes Perfect”
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