【学習サポート】
[古文書学]
古文書学のスクーリングを終えて
教授
細井 計
通信教育のスクーリングで,初めて古文書学の講義を担当いたしました。仙台七夕の最終日にあたる8月8日から10日までの3日間。朝9時30分開始,終了は午後5時40分の1日5コマ(80分授業×5回)という強行日程には驚きました。40年近くになる教師生活のうちで,1日に5コマも授業をしたのは今回が初めての経験でした。教室は冷房完備ですこぶる快適でしたが,終わってみれば,とても疲れたというのが本音です。受講者の皆さんもさぞかしお疲れのことと察しましたが,あにはからんや,元気一杯で生気に満ち溢れているように感じ,驚きを禁じ得ませんでした。皆さんの学習への意欲と真摯な態度が,そのように感じさせたのでしょう。
さて,古文書学というのは,古文書に関する知識を整理し体系化する学問のことです。この古文書について佐藤進一氏は,「特定の対象に伝達する意志をもってする所の意思表示手段」と規定しました(『古文書学入門』1頁,法政大学出版局,1971年)。
したがって古文書の本質は,特定の相手に対する意思表示という点にあり,原則として,差出者,受取者,本文(意思表示の内容),日付等を具備したものが,古文書ということになります。
もともと古文書というのは,差出者と受取者との関係,地域,年代等によって千差万別の働き=効力を発揮するものであり,それは一般に文書の表面にあらわされます。それが文書の様式,形式です。その様式を正しく理解することは,その文書の効力を正確に理解することにもなりますので,古文書学においては様式論が奔驰宝马游戏大厅_电子游戏APP下载-【唯一官网首页】となるわけです。
この様式論を研究するには,まず最初に古文書の解読が必要となります。古文書が読めなくては,様式を理解すること自体が所詮無理です。そこで本スクーリングでは,古文書,とりわけ江戸時代の文書の解読演習を重点的に行うことにいたしました。
江戸時代の文書は,幕府が公用書体として採用した御家流が基本となっています。これは鎌倉時代の伏見天皇の第六皇子で,天台座主を経て京都青蓮院門跡となった尊円親王によって創始された青蓮院流(尊円流,粟田流とも)という書体が発展したものです。したがって江戸時代には,武士をはじめ庶民までが,この御家流で表記するようになりました。「読み,書き,そろばん」という言い方がありますが,江戸時代に「読み,書き」といった場合は,教科書である往来物を読み,それを手本として習字したのです。
そこで本学習では,御家流の典型的な書体で記された「女大学」(天保14=1843年刊)のコピーをテキストにして学習を開始し,次いで「徳川家光領知判物」,幕府の「土民仕置条々」,盛岡藩の「雑書」と「刑罪」,仙台藩領の「借用証文」等の文書の解読を精力的に行いました。
受講者は,北は北海道,南は福岡,神戸からの参加者を含めて8人と少人数でしたが,皆さんの飽くことを知らない意欲的な学習態度には驚かされました。宮城県内からの参加者の中には,古文書を所蔵している図書館に勤務されている方が2人おりました。受講の目的は,「古文書を少しでも読むことができれば,もっと面白くなれるかと思ったから」(O?M氏,受講者の感想文,以下同じ),「古文書の解読会に参加したい気持ちがあり,……受講して……基礎を学びたくて」(S?T氏),というものでした。
3日間という短期間のため,受講者の皆さんは休み時間等を活用して,「わからない所は教えあったりして,あっというまに過ぎてしまいました」(M?Y氏)といいます。それでも各人が切磋琢磨した結果,「女大学」はほとんど読めるようになったようです。この学力を基礎にして,あとは古文書にいつも接して解読を継続することが大切です。それが上達への早道ですから。
受講者からも,「古文書に興味をもつことができたので,これで終わりにしてしまわず,積極的に古文書にふれる機会をつくっていきたいと思います」(O?Y氏),「講義を聞いて,もっと古文書について学ぼうと思いました。……教えていただいたことを,職場に持ち帰り役立てて,いずれは難しい文書も解読できるよう,勉強していきたい」(S?T氏),という決意表明を聞くことができ,3日間の苦労が報われた思いです。
最後に,受講者の皆さんが,このスクーリングを契機にして,古文書により一層親しまれ,解読力を身につけることによって,図書館や公民館等における生涯教育の場で,大いに役立てていただければと念じております。
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