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VOL.42 MARCH 2007

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「余白」の風景と時間

福祉心理学科 T.Y.

 水墨画において,余白が風景に奥行きと深遠さを与えるように,福祉大に籍を置きスクーリングに通った3年間は,私の人生にとっての「余白」を意味していたように思う。
 スクーリング中は講義の始まる前や合間に,2号館前のバルコニーや座禅堂前の長椅子で新聞を読んだり講義のノートを開いたりして過ごした。演習の教室や食工房「風土」のテーブルから見える風景には,西日本出身の私の故郷にはない重厚さと奥行きが感じられた。心の中でときどき「ああ,これが陸奥(みちのく)なのか」とつぶやいている。このキャンパスには夏の盛りの時でも寡黙な静けさが感じられた。
 レポートのテーマに意識を集中して構成を考え発想を練る。科目修了試験では,久しぶりの受験生としての緊張を体験する。これまでの日常にはなかった非日常の経験は,たぶん何年ぶりかに脳に新鮮な空気を送り込み,細胞を活性化させてくれたに違いない。
 受講したそれぞれの科目から心理学という領域を超えて,多くの知識と示唆を与えられた。
 「すべての変化は,恒常性を維持するための努力であるし,すべての恒常性は変化によって維持される」。
 「現実の人間は個人として完結しているのではなく,個人の枠を超えたときに初めて完全となる存在である」。
 「人間の一生は無限に連続する分離の体験である」。
 『家族心理学入門』のテキスト1つからでも印象に残る言葉をいくらでもあげることができる。これらの言葉は心理学というよりも哲学に近い。
 しかし,何といってもスクーリング講座で講師の肉声を通じて伝えられた講義は忘れ難い。そこには講義内容というよりも講師の人格が反映しているからだろう。例えば,最後に受けた「生命の科学」の講座からは人間の「仕組み」について現代科学の先端の知識を得ることができたが,それと共に体に障害を持つ講師の生き方をも学ぶことができた。
 スクーリングで知り合った仲間たちは,みな真摯でひたむきだった。若い人も年齢の差を飛び越えて付き合ってくれたし,夜の街での飲みながらの話は実践的な内容も含めてとても励ましになった。
 卒業を迎え,人生の「余白」の時間が終了しようとしている。一抹の寂しさも感じられるが,多くの知識と心の栄養をもらったことに感謝し,これからの生活に役立てていきたい。なぜなら,「余白」は特別なものではなく,意識を凝らせば日々の生活の中にいくらでも見出せるものだということを,3年間の学習を通じて学んだのだから。

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