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VOL.58 MARCH 2009

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BOOK GUIDE 『ニーズ中心の福祉社会へ』医学書院

 「誰のための,何のための福祉か?」ではじまる本書は,福祉職の待遇をはじめ,介護保険(2000年4月?実施)や障害者自立支援法(2006年4月?施行)の問題点を洗い出し,これからの福祉のあり方に実現可能な提言を投げかけ,実現のための道筋を示しています。現在の福祉制度と政策の改革が「当事者ニーズ」をおきざりにして進んでいるのではないか(p.3)という危機感から,たとえば下記のようなことが述べられています。

  1. ケアプランを自分でたてると利用に歯止めがなくなるというが,「介助者が常時ついていることはプライバシーがまったくなくなることなので,高齢者,障害者とも介助利用をミニマムに抑えよう」とするのではないか(p.254や9章)。
  2. ただし,福祉サービスの利用者にはモラルや「保険者としての自覚」は必要で,「消費者は王様」のようにふるまうことはできないのではないか(p.61?171)。
  3. 現在の介護保険と自立支援法のもとでは,ケアマネジャーのような「第三者による当事者ニーズの判定そのものに膨大な費用がかけられており,この費用をサービス供給に回せば無駄を排することもできる」のではないか(p.253)。
  4. 福祉職の労働条件が低いことは,「高齢者や障害者の生命と暮らしをないがしろにすることにつながる」。ワーカーの待遇改善は大切(p.255)。
  5. 家族の問題として虐待が見えないところで起こるなど,「ニーズ」をとらえること,オモテに出すことは難しい(4章やp.233)。
  6. 国の財源問題は累進課税などの税制を90年代にもどすだけで解決するのではないか(p.270?227)。また,介護保険制度と障害者福祉を単純に統合するのは避けるべきではないか(p.215)。

 他にもさまざまなことが述べられています。家族介護の時代や措置の時代には戻らず,福祉制度や社会をよりよいものにしていこうとする本書の議論の内容は,福祉を学ぶ者ならば是非考えてみたいことです。なお,同一著者らによる雑誌『現代思想』2009年2月号(特集:ケアの未来)もケアワークの賃金がいくらであれば妥当かなどが話題にされていて,おもしろいです。(Pon)

■上野千鶴子?中西正史編『ニーズ中心の福祉社会へ』医学書院,2008年 定価2310円

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