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2020/09/04

教育コラム:オンラインと対面が混合した中での演奏表現

初等教育専攻 渡会純一 准教授(小学校音楽科教育)

音を扱う授業で、同時に音を出すことの苦労

オンライン授業を開始するにあたり、同時に発音すること、相手に音を伝えることについて、4月から学内学外の先生方や研究者とともに検討を重ねてきました。結果として、音の遅延は避けられないことがわかりました。その後、低遅延で定評のあったYAMAHA(株)の「NETDUETTO」(現在の「SYNCROOM」)を使用しての実験も行いました。しかしながら学生の環境は多くが無線LANであることから遅延が大きいこと、大学構内のインターネットが仕様により制限有りということがわかり、今のところ断念せざるを得ない状況となりました。

本ゼミでは器楽合奏や合唱の指導を通じて、音楽をいかに表現し伝えるかをテーマの一つとしています。このことから、この状況のままではゼミの本来の目的が達成できないことから、大学に依頼をし、特例として8月11日より対面での授業の許可をもらうことができました。今回は、対面とオンラインの学生が混在している中での実践状況について、2つの実例を紹介します。

対面とオンライン受講者による合奏に挑戦(4年ゼミ)

8月25日のゼミは、学生編曲作品の合奏でした。編曲者はオンラインで指揮や指示を行います。一部打楽器学生もオンラインです。他の学生は同一の部屋で同時演奏を実施します。そこで、PCの画面をプロジェクターで大きく映し出し、web専用のカメラを用いての撮影を行うことで、指揮者がスクリーン上で見えるように、またゼミ生全員が画面上に映るようにしました。

指揮者ははじめの合図を実施したあとは、実際に聞こえる音楽より早めに指揮を振り、こちらの音楽のタイミングに合わせていました。もうひとりのオンライン打楽器の学生は、大学から聞こえてくる音を合わせて演奏するので、自宅ではピッタリ合った感覚になるのだと思います。ところが、そのオンラインの演奏はそれなりの遅延を伴い、大学まで戻ってきます。それらに惑わされないよう、オンライン学生の演奏の音量を調整するなど、対面のメンバーはさまざまな調整を行いながらの合奏になりました。

学生の感想は、以下のとおりです。

○先日渡会ゼミは、リモートでの合奏を行いました。通信環境の影響もありズレが生じることはありましたが、普段よりもお互いに聴き合い、合わせることを丁寧に行うことができたと思います。遠く離れていても共に音楽を感じることができ、オンラインの可能性を感じました。また、改めて同じ場で音楽を奏でることの喜びを知りました。みんなでまた演奏する日を楽しみにしたいです。

○先日初めてオンライン、対面合同での合奏に挑戦しました。正直な所、この状況で合奏するのは難しいと感じました。対面の人達はズレずに合奏できても、オンライン側ではどうしてもラグが発生してしまい、タイミングが合わないためです。しかし、普段よりも音を良く聴き、合わせようとする努力を全員がしていたと思います。オンラインでも合奏することは出来ましたが、全員が対面で集まれる事が一番望ましいと感じました。

○リモートの合奏において、私はオンライン上で指揮を務めました。対面のメンバーと合奏を行う中で、ズレを修復するために、ワンテンポ早く指揮を振るなどの工夫を行いました。お互い試行錯誤することで、リモートでの合奏に希望を見出すことが出来ました。難しい部分もありますが、普段以上にコミュニケーションを取り合うことで、音楽を楽しむ時間を共有出来るのではないかなと感じました。

○リモートの合奏では、対面で合奏する以上に合わせることが難しかったです。リモートと対面で時差があるため、ずれることがありました。しかし、いつも以上にお互いの音を聴き合うことができたのではないかと思います。今までは皆が揃って合奏できることが当たり前のように感じていましたが、幸せなことなのだと改めて感じました。早く皆が揃って合奏できることを楽しみにしてます。

音符カードによるリズム学習をオンラインで(2年ゼミ)

2年のゼミでは、基本的に各楽器の演奏法などを学ぶ時期ではありますが、オンラインと対面が混在している現状では、このことは実施できません。そこで、今回は音符カードを用いた神経衰弱ゲームを実施しました。このゲームは「リズム学習カード」を用いています。「白カード」と「黄カード」の2種類を使い、裏返しにして別々に置きます。それぞれの群には1組ずつ同じリズムが書かれていますが、片方はタイ(同じ高さの音をつなげる)の記号を使用して書かれているため、一見別のものに見えます。それぞれの群から裏返しのカードをそれぞれ1枚選びます。引いて当てたときには、一定のテンポに合わせてリズム唱(言葉でリズムを言う)ができたら、そのカードが自分の手札になるというルールです。その他は一般的な神経衰弱とほぼ一緒となっています。

実際に行ってみましたが、トランプと違うのは同じペアが1組しかない(トランプは4枚同じ数字があるため2組可能)ことです。それにより、なかなか当てることができないこと、書かれているのがリズムであるため、覚えるのが大変であることから、なかなかゲームは進展しませんでした。それでも、オンラインの人がカードを引くときは「手前の、右から3番目」というように、対面の学生に頼んでカードを引いてもらいます。同じペアが出たときはカードを大写しにしてリズムを言ってもらいます。オンラインの学生が連続して当てるなど、オンラインの状況の中でも白熱したゲームになりました。

学生の感想は、以下のとおりです。

○楽しくリズムの勉強をすることが出来ました。譜読み練習になるなと思いました。1つ1つのリズムを覚えておくのは大変でしたが、当てることができた時に普通のゲームよりも達成感があって楽しめました。

○すぐ見てリズムを取るのが意外と難しく、とても頭を使ったと思います。次にどんな音符が来るかワクワクして取り組みました。カードがそろっても、そのリズムを言えるかどうかの時にドキドキして、そこがまた楽しかったです。

○楽しくリズムの取り方が学べると感じました。カードが違うので、パッと見てではなく、考えて「同じだ」と分かるのが面白かったです。めくった時にカードに書かれているものをみんなで読むと、書かれているものが覚えやすくなったと思います。 

音楽の表現者、そして音楽表現の指導者として

オンラインと対面での同時演奏表現をすることは難しいです。デジタルの技術が進歩してきていますが、双方向の音楽表現に関してはまだまだ対面での演奏には敵いません。一方で、同時演奏以外であればオンライン授業でも可能性があることが、経験から見えてきました。将来音楽表現を指導する立場になる学生にとって、現状において学べることは何か、これからも考えていきたいところです。

【参考文献】芳賀均、伊藤秋梨(2020)『リズム学習ゲームをつくる』文芸社
 

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