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VOL.11 JULY 2003

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[教員研究紹介]
小集団研究から生活構造研究へ??私の研究歴??

教授
雪江 美久

小集団研究からのスタート

 私が学部を終え,大学院に進学した1960年代末から70年代にかけての頃は,私の専攻領域であった社会学や教育社会学の領域では,アメリカを中心として,わが国においてもグループダイナミックスの研究や教育学,経営学,政治学,さらには精神病理学などの領域で小集団(small group)研究に関する関心が急速に高まっていた。この背景には種々の理由があったが,社会学に関していえば2つの理由があったように思う。一つは社会学が実証科学としての位座をより確かなものにするために科学としての方法的精緻さを求め,そのモデルを自然科学の方法に求めていたことと,もう一つは,実践的であることに,より重きをおいた政策科学としての社会学のあり方を求める動きが台頭していたことであった。
 当時,パーソナリティ形成に関わる社会学理論の研究を発展させて,人間集団や行動科学に関心を持ちはじめていた私にとって,「科学の方法」と「実践と科学」の問題は大きな関心事であった。このような事情があって,小集団研究は私にとって大変魅力的なものとなっていた。しかし,今とは違って,欧文で書かれた原書を手にすることは大変困難であり,いろいろ苦労したこともあったが,それだけに求めていた文献と出会った時のうれしさはまた格別であった。振り返って見て,この時期がいちばん本を読めた時であったように思う。
 その後の私の研究に大きな影響を与えたハーヴァード大学のR.F.Bales(R.F.ベールズ)教授と著作を通じて出会ったのもこの時であった。ベールズは小集団研究の方法の確立を目指して,当時の社会学の領域では全く新しい組織的観察方法を開発,駆使するとともに数値解析法を用いながら,人為的にセッティングした小集団を対象にして,集団成員間の“相互作用過程分析(Interaction Process Analysis)”を試み,集団に関する数々の研究成果をあげ,社会学のみならず広く集団研究に大きな影響を与えていた。そこでとられていた研究手法は,まさに社会学の科学としての方法的精緻さを求めたものであった。
 ベールズのこの研究は,一方で当時,世界の社会学界をはじめ広く社会科学の領域で活躍していた同じ大学の上司であったT.Parsons(T.パーソンズ)教授の理論構築に大きく貢献していた。パーソンズはそれまでに示されてきたデュルケームやパレート,それにマーシャル等の学説を集大成し,それを「社会的行為の構造」にまとめ,「行為の一般理論」や「社会構造の一般理論」といった,文字通り“グランド?セオリー”を発表して,世界から注目されていたが,実はこの理論構築にベールズの研究が寄与していた。全体社会を対象にした社会理論の構築をめざしていた“マクロ社会学”の研究成果と,身近な事象を対象にして,より緻密な分析手法を駆使して理論を構築しようとしていた“ミクロ社会学”の研究成果の統合化が大きな課題となったのもこの時期であった。
 その頃,同じ大学のG.C.Homans(H.ホーマンズ)教授が,前述の二人の教授とは立場を異にして,いわゆるR.K.Merton(R.K.マートン)が提唱していた「中範囲の理論(theory of middle range)」の視点から,実際の人間社会における“生の集団”を対象にした研究成果をもとにして「人間集団(Human Group)の理論」を発表した。これも社会学界に一大旋風をまきおこし,わが国の社会学研究者からも大変な関心が寄せられた。私もその一人であった。
 このようにベールズから「集団の構造と機能に関する緻密な分析手法と理論」を学び,ホーマンズからは「現実の“生きた集団”の体系的把握の方法と分析手法」を学んだ。振り返って見て,これは私にとって最大ともいってよい“学びの出会い”であった。

集団の理論研究から,地域社会?住民生活の実証的研究へ

 私の研究は「集団研究の方法」,「集団の構造と機能」,「リーダーシップ」,「集団の凝集性」,「集団位相」,「役割理論」??とその領域を広げ深めたが,一方で東北農村をフィールドとした各種の社会調査を通じて地域社会の実証的研究に関わる機会にも恵まれていた。アメリカ社会学における小集団研究を学んできた私にとって,実際のフィールドワークを通じて出会う数々の生々しい出来事は私の知的関心を大いに刺激してくれた。
 時まさにわが国が高度経済成長期に突入していく時期であり,東北農村は急激な都市化の波にさらされ,それまで長く伝えられてきた伝統的な文化や,生活様式が一気に変えられつつあるときであった。農業の機械化,共同経営方式の導入,“三種の神器”に代表される電化製品の普及,交通通信網の発展……。このような動きはそれまでの東北農村を支えてきた農業のあり方や地域社会のあり方,それに人々の生活?人間関係の在りようを根底から揺り動かすものとなっていた。地域社会の変容の実態につぶさに触れながら,直面する“事実”通じて,人々にとって“変わるべきもの”,“変わってはならないもの”,“求められているもの”,“新しく創出していかなくてはならないもの”……を考えさせられることになり,動機づけられた研究意欲は,その後,社会教育論やコミュニティ論へ,さらに生活構造論へと深められていくことになった。

生活構造研究との出会い

 東北農村のフィールドワークを通じて,当時の農村社会学研究者から多くのことを学んだが,直接会ってお話をいただいた高齢者や若者たちから教えていただいたことは実に貴重なものであった。学問論として語られる“地域社会論”に対して,生々しく語られる“生活論”は,それゆえに限界はあったとしても迫力があり,逆に前者の論議が“科学の客観性,普遍性,法則性”を重視して熱がこもればこもるほど,何か直面する“事実”との間にギャップや違和感をもった。もちろんそれは私自身の未熟さがその思いをつのらせていたことはいうまでもない。
 そんな時,ある調査研究のまとめをしている仕事の中で,小集団研究で大いに啓蒙された「場の理論」により,私が抱き始めていた“違和感”を払拭できるのではないかと,一種の煌きが脳裏をかすめた。恩師の指導もあって,それが私の生活構造論への小さな,しかし期待に満ちた取り組みの第一歩でもあった。“生活者を取り巻く存在条件”からのアプローチに加えて,“生活者それ自体”からのアプローチ”の可能性を求める試みであった。もっともっと“事実”に,いや“事実”のもう一つ奥に潜んでいるであろう“真実”に触れ,それを掘り起こし,地域社会の,そして私たちの生活の問題を考えていきたいと思った。当時,実存主義や構造主義に関する出版物が書店の棚を賑せていたことを思い出す。いまだに読み切っていない当時購入した数冊の本が私の書庫を飾っている。
 ベールズやホーマンズから学んだことは私の関心が領域的に広がり,深まるにつれてますます示唆的なものとして甦り,今もなお本当の研究とはどういうものなのかを教えてくれている。

現在取り組んでいる研究の一例

 わが国における生活構造研究の主流は経済学,家庭経済学であり,社会学の領域ではまだ歴史が浅い。それだけに概念的整理や理論そのものの有効性を論じることに時間をかけてきた。それは必要なことであったが,それを踏まえた新たな展開が期待されている。学問体系や科学の方法,さらに社会組織のあり方が,進歩?発展の名のもとにますます細分化の度合いを深めてきているなかで,改めて生活を,真の意味での生活者の視点から,よりトータルに体系的に捉えなおし,生活の成り立ちとそれを動的なものにしている“仕組とその論理構造”を把握する必要性を感じたことが私と生活構造研究との出会いであった。
 遅々たる歩みではあるが,今,二つの視点から仕事をすすめている。その一つは,わが国の高度経済成長期を挟んで示された“生活?文化の変化の諸相”をできるだけ精確に描き出すこと,もう一つは,これまで近代化といういい方のなかで忘れたり,切り捨ててきたわが国の伝統的文化のなかに潜んでいる“真の合理的なるもの”の再発見である。
 これらの仕事を通じて,これまで求めてきた生活のあり方を見つめなおし,改めて今問われている人類社会にとっての“真の豊かさ,便利さ”とは何か,“真の進歩?発展”とは何かといった問題を考えていくための素材を用意したい。これは私の生活構造研究にとって,もう一つの大きなテーマとなっている,産業革命にも匹敵する「IT革命」がもたらす社会?生活構造再編の動きの問題にも関連して大事な仕事となっている。

参考文献
?Robert Freed Bales "Interaction Process Analysis-a method for the study of small group-".1950.手塚郁恵訳『グループ研究の方法』岩崎学術出版社,1971.
?George Caspar Homans "The Human Group".1951. 馬場明男?早川浩一訳『ヒューマン?グループ』誠信書房,1959

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