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VOL.38 SEPTEMBER 2006

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持続可能な福祉社会  ちくま新書

 「社会保障」はとても幅広い概念です。通常いわれているものでも,年金,医療保険,介護保険,雇用保険,生活保護etc。でも,困ったときに助けてくれるのが「社会保障」ならば,困らないようにあらかじめ予防するのも「社会保障」ではないでしょうか。
 本書ではたとえばそんな点から,「社会保障」を今後はもっとひろく考えてもよいのではないか,そして,新しい「社会保障」の考え方にもとづいて,国が行う政策を考え直してもよいのではないか,ということが主張されています。とくに新しい考え方だと思った点を3つ紹介します。
 まず,最初が「教育」も失業などを防ぐための立派な「社会保障」のひとつ,「人生前半の社会保障」であるという考え方を提唱している点です。
 2つめに,経済を成長させることにより雇用を増やし所得を増加させるこれまでの拡大路線の社会保障はいつまでも続かないのではないか,という点が述べられています。そして,「富の総量」のあり方を扱う「環境政策」が「社会保障」をどうするか,と深くつながっているという新たな考え方を提唱します。本書のタイトルである「持続可能」とは,このままの経済成長路線はいずれは破綻する,新たな道を模索すべしという筆者の思いがこめられているようです。
 さらに3つめとして,現在の「社会保障」は金銭的なものが多いが,「心理的ケアに関する社会保障」があってもいいのではないか,ということも主張されています。心理的ケアには,病院の患者や看護師に対するもの,学校での児童生徒や教師に対するもの,会社での働く人に対するものなどいろいろあるでしょう。これを「社会保障」として税金またはカウンセリング保険のかたちをつくり,ケアをする人(臨床心理士や介護士,福祉士が行っていること)にもっと給料が払われるようにするのはどうか,という提案です。さらに,ケアに関しては個人的なもの,地域?コミュニティによるもの以外に自然の力(スピリチュアリティ)などもとりあげられています(p.235)。
 もちろん,反論はいろいろできるかもしれません。たとえば,「心理的ケアに関する社会保障」について,制度化してお金を使っても本当にそれがいいケアに結びつくのか,という点です。
 ですが,本書のような視点にたって,社会保障(あるいは社会福祉)の役割,ひいては政治?国家の役割について考え,新たな道を考えてみるのもよいと感じました。どうぞ一読してみてください。

(Pon)

■広井良典著 『持続可能な福祉社会—「もうひとつの日本」の構想』ちくま新書,2006年 定価780円+税

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