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VOL.54 SEPTEMBER 2008

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キャップハンディ体験が開催されました

 去る8月18日(月)に,ハンディをもつ方が日常生活を送るうえで,どのような時に,どのような場所で,どのような不便や不安を感じながら過ごしているのかを知っていただき,また自分にできることを考える機会として,体の不自由な方の立場を疑似体験する,キャップハンディ体験が開催されました。内容は,車椅子体験(下肢不自由)と白杖体験(視覚不自由)の2つを行いました。
 最初に行われたのは車椅子体験です。参加された学生さんの真剣な顔つきから,初めての経験に少し緊張しつつも,それぞれに何かを学ぼうとする熱意が伝わってきました。
 まずは,車椅子を前に,どのような方が利用し,普段街ではどのような場所に設置されているのかなどを,共に考えました。自分自身が利用した,もしくはお手伝いしたことがある,といった討議をするうちに,徐々に和やかな雰囲気になっていきました。車椅子の操作への期待が高まる中,車椅子各部の名称や操作方法,注意事項を知らずには危険であることから,車椅子についての基本的な操作方法を学び,いざ車椅子へ向かいます。
 恐る恐る,車椅子を自力走行で操作します。なんとか感覚を掴もうと,試行錯誤しながら,真剣な表情になっていきます。両手でハンドグリップをしっかりと握り,車輪をゆっくりと回転させるも,思うように直進できない?????よく見ると,そこは目で確認が難しいほどの斜度がある地面だったのです。これは講師のいじわるか(笑)。私たちにとっては普通に見える地面ですが,直進させただけで,車椅子はゆっくりと傾きながら低い方へと進んで行きます。せっかく和らいだ表情が,少々困
 惑したものへと変化しました。しかし,これこそが体験の醍醐味といえるでしょう。何気ないところでの気づきが,相手への思いやりにつながるのです。
 その後は,自力走行で感じた気づきを活かし,2人1組になって車椅子利用者への配慮や安全,安心を考えた介助走行に取り組みました。参加者の皆さんは,段差?階段?スロープ?砂地(人工的に利用した場所)などを使った介助方法の体験を通して,さらに新たな気づきを見つけられたようでした。
 ところで,介助にあたっては,知識や技術を知ることはもちろんのこと,相手を安心させるために必要なコミュニケーションや声がけが大切です。友達や初対面の人と接する際の自然な挨拶や会話を当たり前に行えばよい,という考え方もできますが,一方で,「よい人間関係のつくり方」といった内容の著書が売れている昨今においては,そんな当然のことが難しくなっているのかもしれません。
 さて,2つ目のキャップハンディ体験は,白杖体験です。脳は情報の90%を視覚から得て,そのうち50%が視覚情報処理のために働く,といった説明に始まり,ここでも,使用する福祉機器である白杖や視覚不自由についての基本的な解説が第一歩となります。ひとえに視覚障害といってもさまざまな種類がありますが,白杖体験は車椅子体験に比べ,非常に危険を伴います。私たちの情報源の大半をしめる視覚をアイマスクで遮るのですから,通常,この状態にされただけでもう怖くて動けなくなってしまいます。体験では,始めにアイマスクのみを使用し,防御姿勢をとっての歩行を行いました。参加者の皆さんは,自分が目指した場所に向かうどころか,最初の一歩がなかなか踏み出せないように見えました。
 次に,白杖の使い方を知ってもらい,アイマスクと白杖を使用しての歩行を試みました。アイマスクのみの時とは若干異なり一歩を踏み出すことに,さほどためらいは感じられませんでしたが,それでも,脚の運びはおぼつきません。一歩,また一歩と慎重に白杖と足の裏を頼りに歩く姿は,まるで旅行先の宿で夜中にトイレに立った際,暗い部屋の中手探りで電気のスイッチを探す姿のようです。目の不自由な方が日頃感じている不便さを,少しでも実感できた瞬間だったと思います。ここでも,気づきを学んでいただくために,介助者と対象者という相互の立場を交互に体験していただきました。ふと見ると,対象者を安心させるために必要なコミュニケーションや声がけをごく自然に行っている姿が,そこにありました。
 キャップハンディ体験が終わり皆さんの顔を見ると,不安を乗り越えた自信に満ちており,そして,少しだけ頼もしい顔になっているように私には感じられました。学生さんの一人が何気なく口にされた「自分は身体に不自由を感じるところはなく,日々何気ない生活をしているが,そのことがどれだけありがたいことかを考えさせられた」との言葉が印象に残っています。
 今回で2年目となるこのキャップハンディ体験ですが,毎回,参加される皆さんの真剣さに感服しています。また,参加される動機はそれぞれと思いますが,体験を終えた時,学生さんの間に一体感が生まれることに感動を覚えます。おそらくは,そこに共通意識と理解が生まれるからではないでしょうか。最後に,今回の目的の一つにありました,自分にできることを考える,ということについて,日頃感じていることを記します。実際に行動(支援)をしようと考えても,自分自身に余裕が無いと,忙しさを理由に行動を躊躇してしまうのではないかと思います。しかし,「忙」という字は「心を亡くす」と書きます。思いやりをなくしてしまうことのないよう,心にゆとりを持っていきたいものです。
 以下に,これまで行われました「キャップハンディ体験」の際,ご協力をいただいたアンケートより抜粋した感想を掲載いたします。是非お読みになってください。

斉藤 弘樹 氏
 現職の教諭です。学校において介護体験があったとしても生徒優先で教員は見ているだけのことが多く,12月に福祉科教員免許状取得にあたって介護実習を受講しますが,車椅子に乗る方の気持ちを理解していないので不安でした。
 今回学んだことを学校の授業で生徒にも伝えていきたいし,体験もさせていきたいです。
 また,車椅子の方や全盲の方を街で見かけたら気にかけて援助できるところはしていきたいと思いました。講師の先生の説明も丁寧で解りやすく機会があったらまた受けたいと思います(次回は白内障の方の体験もしてみたいと思います)。

野中 正人 氏
 気づきの連続でした。ハンディキャップのある方々が日常的に恐怖感や不安感に押し潰されそうな心境にあるということを,身をもって感じることができました。
 通信教育部においても実習の講義としてさまざまなハンディキャップを体験できるようにしていただければ,現場経験のない方にもより多くの「気づき」を提供することができると思います。その「気づき」を実際に活かすことが私には何よりも大切なものだと思います。

※お知らせ
 来年の夏期スクーリングにおいても,キャップハンディ体験を実施する予定です。興味をお持ちの方で,参加を希望される方は,来年6月に発行いたします『With』をご覧下さい。

(通信教育事務部 平野 貴之)

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