【現場から現場へ】
[OB MESSAGE] 街と出会う
社会福祉法人 緑仙会 通所授産施設パルいずみ(精神保健福祉士)
石黒 亨
◆はじめに
私の属する社会福祉法人緑仙会では,精神保健福祉法に定められている4つの社会復帰施設(以下施設)を運営している。授産施設(「パル三居沢」と「パルいずみ」)が2カ所,精神障害者が入所して,街で暮らす準備をする生活訓練施設(「ウインディ広瀬川」)が1カ所,そして精神障害者が街で暮らしていくうえでのさまざまな相談にのる地域生活支援センター(「ほっとすぺーす」)が1カ所である。私は,「パル三居沢」から「ほっとすぺーす」を経て,昨年度より「パルいずみ」で勤務している。
◆就労支援──開拓ネットという試み
利用者の多様なニードのなかに,就労ニードがある。利用者が街で暮らし続ける効果を,施設はある程度有しているが,それが本人の望む形の暮らしとなっているかは別の話である。特に就労ニードを達成できる利用者はきわめて少ない。
「働かなくても,その人らしく生きていければいい」──このことばを,かつて無自覚に利用者に対して使ったことがある。今にして思えば,就労支援の方法論をもちえていないがゆえの言い訳にすぎなかったと思う。「そんなこと言えるのは,あんたが働いているからだ」──利用者のつぶやきが耳を離れない。社会復帰=就労という考え方への問い直しから業界に流布した言葉とも思えるが,そもそもどのように生きるのかは,スタッフが言える事柄ではない。生き方を決めるのはあくまでも本人である。
かつては,病院のワーカーや保健所のスタッフが,公私にわたるネットワークをフル活動して新規事業所を獲得してきた。これにより,職を得た精神障害者は少なくない。しかし,この方法には,スタッフ個人が抱え込んでしまい,事業所情報だけでなく開拓戦略情報の共有化が進まないという問題点もあったように思う。就労支援とは,利用者のニードと街にある事業所のニードを橋渡しすることに他ならない。これまでは,自分が担当する利用者の就労ニード達成に向けての,特定の個人向けの職場開拓という流れはあっても,街のニードを掘り起こし,利用者に伝えていくという逆の流れが弱かったように思う。
こうした状況を打破すべく,03年6月,就労ニードをターゲットにした開拓ネットが,障害者就労支援センターの呼びかけにより,緑仙会の施設も含む10機関が名を連ね結成された(現在「就労支援意見交換会」と改称)。サービスの当てはめに終わりかねないという現行のケアマネジメントへの問題意識がこの新たな動きをうみだしたともいえる。
開拓月間をもうけ,各機関で作戦を展開し,昨年12月にはその経過?結果を報告しあった。ある支援センターでは地元の商店にアンケートを検討している。その主な内容は今まで障害者を雇用したことがあるかどうか。必要なサポート体制は何か。どのような人材を求めているのかなどである。
就労支援に関する研修会は,以前より開催されているが,多くの場合先進的な実践を,フロアーで聴いて感心して終了ということに留まっていた。この開拓ネットでは,参加者各自が実践者として参画することが大きな違いである。精神障害者についてどのように事業所に伝えたか,プレゼンツールは何を用意したかなどなど,それぞれの創意工夫を持ち寄り,事業所情報と開発方法の共有を図っていきたいと考えている。
◆専門職のリハビリ
ここで,パルいずみが中心となって展開している作戦の一つを紹介する。作戦名は「お寺の掃除開拓作戦」—お寺なだけに数珠つなぎで開拓を—である。「寺の掃除を業者委託すると,月に1?2回の稼動なのに,年間90万円かかる。なんとかコストダウンしたい」知人を通じて,こうしたお寺のニードを耳にしたことが,この作戦のきっかけである。
営業を開始したものの,なかなかヒットしない。特に,知的障害者関係の営業力の強さを,今更ながら痛感した。寺の掃除に関わっているのは,障害者だけではない。シルバー人材センターから高齢者が,そして学費を稼ぐために住み込みで留学生が従事している場合もあった。学都仙台ならではの話しかもしれない。「草刈りするから,めしを食わせて欲しい」と路上生活者がやってくることもあるという。「あんたがたより,彼らの方が営業しているよ」ある寺の住職が私に放った言葉である。
その後,お供えの花を肥料にリサイクルしているお寺と出会うことができ,昨年10月より仕事がスタートした。ただ,ここはパルいずみからは離れた立地だったため,歩いて5分にある作業所「心や」とネットをくみ展開している。
私がこの開拓ネットに参画したのは自分のためでもある。それは私自身のリハビリともいえる。長年施設という箱の中にばかりいると,利用者が施設プログラムに馴染むことにばかり着目してしまいがちになる。まず社会復帰すべきは実は施設であり,その職員かもしれない。実際の事業所の声,そして事業所にむすびついた利用者の声に耳を傾けることで,街から施設内のあり方を再点検する必要がある。そうすることで,ケース(箱)ワーカーでない,本当に意味でのソーシャルワーカーでありたいと思う。