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VOL.50 MARCH 2008

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【学習サポート】

[卒業される方へ] 卒業おめでとうございます

通信教育部部長 寺下 明

◆卒業の成果

 日本の大学は,入るのはむずかしく,出るのはやさしいといわれます。しかし,通信教育はまったく逆であります。皆さんの多くは,本来の仕事をもちながら,つねに,レポート,試験,スクーリングと取り組まなければなりません。卒業するのは,ところてんのようにはいかず,困難をきわめます。そんな中で,晴れて卒業まで到達された皆さんには,そのたゆまない努力と研鑽に対して,心より敬服いたします。ご卒業,本当におめでとうございます。
 「学習の根っこは苦く,実は甘い」。学習には,時に苦しい局面が必要なのかもしれません。苦しい努力を重ねた年月の甲斐があって,学位や資格という成果を手にされたことは素晴らしいことです。しかし,本当の成果は,その過程で形成された,目に見,手に取ることのできない自らの知性と精神にあり,それは,形あるものよりはるかに大きいものであると確信しております。

◆成熟社会の予感

 スクーリングの時でした。いつも休憩時間に分厚い本とノートを取り出して,何やら調べている学生がいるのです。エジプトの象形文字,ヒエログリフを解読している様子でした。思わず,何のためにそんな難しいことを勉強しているのですか,と尋ねてしまいました。自分の身に引き寄せて,何か研究発表か論文のために寸暇を惜しんで勉強しているのかと思ったからです。すると,「いえ,これは私の楽しみなのです。特に何かのためというのではなく,自分のためにやっているのです。いわば,私のライフ?ワークなのです」という答えが返ってきました。
 直接的な利益のための学習ではなく,悠々と自分のために何かを研究するというのは,とても新鮮な驚きでした。研究したことを何か形にしなければと日々あくせくしている我が身を恥じ入る次第でした。同時に,こうしたアマチュアな精神(学者)が,健全で重厚な成熟社会を築いていくのだろうということを予感しました。
 通信教育の仕事をしていますと,実にさまざまな人との出会いがあります。勉強になることが多く,いつの間にか自分自身が変わっているのに気づくことがあります。ヒエログリフを解読していた学生も今年卒業されました。

◆生涯にわたる学習

 通信教育で学ぶ皆さんのなかには,職業に就いていたり,家庭で子育てや介護の経験をもって入学される方が少なくありません。それゆえに,入学の目的や自身の学ぶ意欲や自覚的な問題意識には強いものがあります。社会人として学ぶ皆さんの存在は,大学で学ぶことの意味を改めて考えさせられます。
 デューイ(Dewey J.)は,教育の本質を人間の経験の再構成であるとしました。すなわち,学習者の経験をより成長につながるように再構築することのなかに教育の目的があると考えたのです。しかし,人間の経験を教育の出発点と目標に据えるという考え方は,生徒?学生よりは学校を出てからの成人にこそふさわしいといえます。成人のほうが豊富で多様な経験をもち,それを日常の生活に生かしているからです。
 したがって,大学通信教育は,成人を対象とした教育というよりも,むしろ成人の特性を活かした教育として理解していかなければならないはずです。成人の特性をふまえた教育や学習を構想していかないと,従来の学校教育の目標と方法をそのまま成人に適応してしまうことになりかねないからです。本学の通信教育部は,成人の特性を活かした学習支援によりいっそう取り組んでいるところでございます。
 成人の特性として,最近の研究によれば,時間の制限がなく,自分に適したペースとやり方で取り組めば,質や個性的な点では成人は生徒や学生に劣るものではなく,歳を経るにつれ,より高度なものになっていくそうです。さらに人生経験のなかで培われる思考や言語活動は,生涯にわたって駆使していくことによって,いっそう豊かなものになっていくことも言われています。つまりは,知的能力はいくつになっても伸びると考えてもいいのではないでしょうか。

◆これからも応援しています

 これからの時代は「知識基盤社会」といわれますが,ますます不透明で複雑になることでしょう。そういう時代に対応するためには,さらに知的再構築が必要になってきます。新しい学問も出てきますし,新しいやり方も出てきます。今回の卒業の後,再び大学で学ぶことになるかもしれません。
 イギリスやアメリカでは,大学の学位授与式のことをcommencementと呼ぶことが多いそうですが,commenceには「始まる」という意味があります。卒業式は「終わり」ではなく,新たな「始まり」でもあります。
 これから,成熟社会に向けて,皆さんの知性がますます必要とされることと思います。たゆまぬ努力と研鑽があれば,その知性はよりいっそう洗練され強化されることでしょう。皆さんのご活躍を願っています。

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