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VOL.50 MARCH 2008

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投稿

●卒業研究の結果報告とお礼

福祉心理学科 F. M

 私は,この1年間「宗教意識と生きがい感の関連 ?大学生と成人の比較を通して?」というテーマで卒業研究に取り組んでまいりました。私が宗教に関心を抱いた一つの大きな理由は,私の生まれ故郷が山梨県にある日蓮宗の総本山の身延山というお寺の近くにあり,幼い頃から毎朝毎晩祖母の唱えるお題目を聞いて育ったせいもあって,「門前の小僧」のようにお経本を暗記しているほど幼い頃から宗教が身近なものであったからです。
 さて,本研究では,宗教意識と生きがい感,精神的健康,および充実感との関連を検討することを目的とし,調査を行った結果,宗教を大切に思う心は,大方の大学生,および成人男女に生きがい感と充実感をもたらし,精神的健康を保つ上でその役割を果たしているという仮説を支持する結果が得られました。
 とくに,顕著に現れた傾向として,まず,宗教意識は成人男女においては,多くの人が似通ったとらえ方をしているという点です。一般に,学校や職場などにおいて宗教についての教育など受けたことのない私たち日本人が,ある一定の年代になると皆同じような宗教に対する意識をもつようになると言うことは大変興味深い現象だといえます。
 次に,生きがい感との関連においては,年代を追うごとに,宗教を肯定的にとらえることとの相関が高くなることが示されました。神谷(2004)のいうところの,宗教の果たしうる最も本質的な役割は,人格に新しい統合をあたえ,意味感,すなわち生きがい感をあたえることである,という仮説を支持する結果が本研究においても示されました。
 しかし,注目すべき点として,20代の社会人において,宗教を大切に思う意識の強い人たちは,「うつ傾向」が高く,また,人との「連帯」の意識が薄いという傾向が示されました。一般に,現代の若者が友人との会話の中で宗教を話題にすることは,特別な宗教の信者でない限り,あまり想像できないでしょう。そのような皮相な友達付き合いを好む現代の若者において宗教を特別大切に思う若者は,実生活において何らかの問題を抱えていている可能性も否定できません。
 しかしながら,調査結果から男子大学生においても,今後の自分自身の人生において,信仰を持って人生を過ごしたいと思う大学生も数多く存在することがわかりました。そして彼らは,宗教を救いとしてとらえる成人に対して,宗教は,社会に秩序をもたらし,人との和を保つ手段として,自分自身の人生に活かそうという前向きな宗教意識を抱いていることがわかりました。つまり,誰にとっても平坦な道程でない人生を全うしていく上で,宗教を大切に思う心は,自然宗教の信者として自然にわきあがってくる素朴な宗教心である限り,救いとなり,また,人生の道標にもなりうるということが本研究の調査結果からもうかがいしることができました。
 しかし,本研究の問題点として,調査対象者が,通信制の大学で学ぶ学生さんということで,一般に生きがい感を強くもつ層を対象者としている点があります。よって,この研究結果を一般にまで拡大することは慎重にならざるを得ません。今後は,対象者をさまざまな分野の成人を対象とするものに拡げていく必要があるといえます。そのような検討を重ねていくことにより,宗教が果たす役割,とりわけ心理臨床で直面するさまざまな心理面での問題を抱えている人たちの援助における宗教の役割を考えていく上での一助となることでしょう。
 本研究についてご指導いただきました皆川州正先生には心から感謝申し上げます。ならびに,調査にご協力いただきました柏木誠先生,木村進先生,小松紘先生,白井秀明先生,佐藤俊人先生,大関信隆先生,中村修先生には,貴重な講義の時間をお貸しいただきましてありがとうございました。また,通信教育部事務局にもさまざまなご配慮を頂きました。そして,何より,質問紙に回答いただきました学生の皆様に心から感謝申し上げます。

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