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【現場から現場へ】

[OB INTERVIEW] 知的障害者授産施設での仕事

公立ぎんなん寮 施設長
市ノ渡 康勝

 今回は,青森県上北郡上北町にある知的障害者授産施設「公立ぎんなん寮」の施設長をされている市ノ渡康勝さんにお話しをお伺いしました。障害者支援費制度などで変わりゆく施設のあり方をお話しいただきました。

Q.知的障害者授産施設はどんなことをしている施設ですか。

A. 18歳以上の知的障害者で,一般の事業所に雇用されるのが難しい方が,入所または通所する施設です。入所した方は,自活に必要な訓練を行いながら,仕事をしています。
 知的障害者がすべて養護学校高等部に行くわけではありませんので,希望があれば15歳の方を受け入れることもできます。また,数年前から,授産施設について知的?身体?精神障害者の相互利用が実施されていますので,身体障害者などの受入れも可能です。現在は身体障害者,および精神障害をあわせもっている知的障害者も入所しています。

Q.障害者の方々はどんな仕事に携わっていますか。

A. ぎんなん寮での障害者は,担当職員(指導員)とともに,

  1. ハム?ソーセージを地元産の豚肉からつくる(かつては肥育もやっていました),
  2. 鉢花の栽培と販売(温室は施設内に15棟あります),
  3. クリーニング(病院や高齢者施設から受注したシーツや白衣など)
  4. 直売店「HANDS」でハムや花や他の福祉施設の産品を販売し,喫茶店も行う,

の4つの授産事業のいずれかに携わっています。利用者の給料は1カ月1万5千円ほどです。

Q.施設には何人くらいの知的障害者が住んでいるのですか。

A. 定員いっぱいの50人(男性28人 女性22人)です。年齢構成は,図1の通りです。その他に通所で利用されている方が6人おられます。十和田市,三沢市,上北郡などの13市町村の上北地方教育?福祉事務組合が「ぎんなん寮」を設置?運営しているのですが,その地域出身の方が9割を占めます。
 他県の大規模コロニーでは,400人近くが生活されているところもありますので,「ぎんなん寮」はとてもこじんまりとしています。建物も平屋建てで,空間をゆったりと使い,分棟方式で快適な生活ができるようにしています。温泉もあって,毎日入浴ができます。他施設では毎日入浴ができないところも多いようですよ。

図1 年齢別利用者数

Q.施設にはなかなか空きがないようですが。

A. そうですね。退所する方は少ないので,空きが出ないのです。ぎんなん寮ができて,23年になりますが,設立時からいらっしゃる方が約半数です(図2参照)。
 また,退所していった方の状況は,図3のとおりです。一般就労されているのは軽度の方です。

図2 利用年数の状況

図3 退所者の進路

Q.入所されている方々は,どのような感想をお持ちですか。

A. わずかではありますが,本人が社会に出たいという人もいます。家族がおいてほしいというので,入所されている方もいらっしゃいます。しかし,大半は,「ぎんなん寮」での生活に満足していただいているようです。

Q.4月から支援費制度がスタートしましたが,準備ではどのようなことをされましたか。

A. 支援費制度では,本人と施設が直接契約を交わすことになりました。現在入所されている方とは,4月までに,本人および保護者などの後見人の方との契約を済ませました。
 ただし,現時点では,青森県の場合は,新しく入所してくる方を,施設が勝手に決めることはできず,県が調整することになっています。
 また,利用者の方も,現時点では,選択の余地があるほど利用できる施設が数多くあるわけではありません。入所型の知的障害者授産施設は青森県に3カ所しかありませんし,通所更生施設やグループホームも不足しています。利用する施設を自由に選べるようになってはじめて,本来の「契約制度」ということになると思うのですが,今後の施設整備に期待したいのです。

Q.支援費制度では障害者本人の意思が確認しづらいことも考えられますが,その場合は家族の意向ということになるのですか。

A. そうです。本人ができない場合は,家族,または成年後見制度のもと後見人が契約を行います。また,契約にあたって,本人の意思と家族の意思が反する場合は,これからは本人の意思で,施設に入所するかを決めていく方向だと思います。しかし,家族の意思と相反する場合どうするかは,難しい問題です。家族の方も,生活のさまざまな事情で,子どもを施設に入所させていますので。

Q.知的障害者の自活や一般就労はなかなか難しいと聞くのですが,施設を出て地域で暮らすためにはどのようなことが必要なのですか。

A. 現在,グループホームが地域で暮らすための住居として,注目されています。ある県では,入所施設を解体し,グループホームをどんどんつくる,という方向ですね。そして,グループホームをつくる場合には,どんどん補助金を出していく政策です。青森県では,現時点ではグループホームをつくるのも,事業者の制約などがあり,自由にはつくりにくい感じです。今後変わっていくとは思っていますが。

Q.仕事をされていて,どのようなことが大変ですか。

A. 自己選択,自己決定を基本にした契約制度としたわけですが,制度と実態がかけはなれ,利用者の希望をかなえてやれないことです。また最近,家族の方もいろいろな価値観をもたれていますので,こちらがよかれと思ってやったことが理解されないこともある点などでしょうか。
 さらに,近年は考え方も制度もどんどん変わっていきますので,常に勉強していく必要を感じています。そこに,やりがいがあるとも思っていますが。

お忙しいなか,ありがとうございました。

(後記)実際に「ぎんなん寮」にお邪魔して,お話をお伺いしましたが,緑豊かなひろびろとした敷地に,かわいらしい建物がいくつかあって,とても快適そうなところでした。休日には,ハイキングやサイクリングに来て,温室を見,喫茶をしていく方も多い様子。私もHANDSで,クッキーや味噌を買って帰りました。ハムなどは通信販売もやっているようですよ。ホームページや電話(0176-56-5126)でお問い合わせください。

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