【現場から現場へ】
[関連施設紹介] 介護現場における専門性とは
医療法人社団東北福祉会 介護老人保健施設 せんだんの丘 副施設長
土井 勝幸
◆1 はじめに
前号において“ユニットケアとチームアプローチ”をテーマにし掲載しましたが,読まれた方は内容をどのように感じたでしょうか? また,読まれていない方は,是非前号に目を通してください。
この介護という仕事を皆さんと真剣に考えたいと思っています,そのためには,多くの方の意見が必要です。広義の意味での高齢者福祉を語る前に,私たちの目の前の現実に具体的にどのように答えるのかを今は大切にしたいと考えています。
さて,その答えを見つける一つのあり方として,チームアプローチの大切さを掲載しました。今号では,具体的に介護現場における専門職種の専門性について述べることとします。
◆2 介護現場における専門職とは?
せんだんの丘には,医療?福祉のさまざまな専門職種が配置されています。医師?看護師?介護福祉士?社会福祉士?介護支援専門員?作業療法士?歯科衛生士?管理栄養士?福祉用具専門相談員……等々です。しかしながら,すべての職種が場面を共有することがせんだんの丘の基本方針であり,いわゆる縦割りの専門性を排除することを基本としています。不思議なもので,この医療福祉の現場ではすべての職種が基本的に場面を共有しあう,要するに介護業務をすべての職種が一緒に取り組むというやり方は,必要だとわかっていても,できていない施設が多く存在しているのです。では,専門性が場面を共有しあうことによって起きてくる“ケアの質”とは具体的にどのようなことなのでしょうか?
(1) 看護職について
老人保健施設の場合,医療機関から直接入所するケースが多く,必然的に医療依存度が高くなってしまう傾向があります。そうなりますと,病院=安静?処置のイメージが残り,生活=活動という発想を希薄にしてしまうことがあります。
そこで,看護職の役割として必要になるのが,より積極的に生活支援をしている職種=ケアワーカーに対して,活動を保障するための健康管理の視点を伝える必要が出てきます。看護師が勤務している時に健康管理ができるのは当たり前ですが,ユニットケア(小集団ケア)の場合ユニット内の看護師不在日が発生します。これは医療ケアユニットにおいても例外ではなく,看護師不在日にケアワーカーが健康管理をできなければ生活=活動の保障ができないことになってしまうのです。
せんだんの丘における看護職の専門性とは,看護職が勤務していない時にこそ,健康管理が機能し,安全に安心して生活できる環境を作ることなのです。この環境を作るためには,ケアワーカーに健康管理の視点を適切に対応できるよう明確に伝えておくことが大切になります。
どうすれば,それができるようになるのか? それは,すべての業務を共有しあうという意識の前提が必要です。要するにお互いの専門業務の役割や大変さを理解しあうことで,専門性を認め合う関係になるということです。縦割り業務で分化してしまうと,私の役割ではないという妙な安心感が生まれ,そこが落とし穴になります。いつ自分が……という緊張感が学びの力になり,知識?技術の積み重ねになります。
その時に,いつも業務を一緒にしていれば,教わる前に“見る”ことができます。“百聞は一見にしかず”“習うより慣れろ”です。食事?入浴?排泄は当然ですが,洗濯?掃除?ゴミ出しに至るまで皆で業務を共有すれば,看護の専門性の部分も例外ではなく,必要に応じ場面を共有します。お互いが業務を共有しあう安心感はある種の緊張感と余裕を生み,これは皆で共有することのできる専門性を浮き彫りにしてくれているのです。
(2) 介護職について
介護職の専門性とは何でしょうか? ある意味一番難しい問いかもしれません。何故なら,生活の営みすべてに最も身近にかかわる職種であるからです。人の活動が無限であるならば,そこにあたる介護もまた無限になります。でも,生活支援を必要としている方が目の前にいるのであれば,人の営みとして欠くことができないものは,三大介護といわれる食事?排泄?入浴が入口となります。
排泄を一つ例にしましょう。オムツを使用して入所された方があるとします。この方にとって本当にオムツが必要であるかどうかの判断をどのようにするのでしょうか? 声がけ等によりトイレ誘導を行うことで,オムツへの失禁を防止し,オムツを使用させない。言われてみれば簡単なことですが,声掛けのタイミング,排尿感覚,水分摂取量,生理学的な尿量のメカニズム等,トイレへの移乗動作,座位姿勢等,さまざまに考慮すべき点が上がってきます。なおかつ,オムツを突然外すわけにもいかないので,経過を見ながら,オムツ?リハビリパンツ?軽失禁パット+布製のパンツ?お気に入りのパンツ等,オムツの種類や使い方まで考えなければなりません。
要するに,ケアというのは排泄というたった一つの事象に対しても,無限大に想像力を働かせ,知識?技術を駆使する必要があるのです。これは,ひとりひとりの生活を見ている人間でないと理屈で考えてしまうので,上手くいかないのです。“その人らしい生活”という曖昧な表現では,これらを具現化することはできないでしょう。具体的な方法論が必要なのです。“思い”だけでできるのであれば,誰でもできるということで,専門性は必要なくなってしまいます。ケアワーカーの専門性とは,じっくりと生活を見ること,考えることであり,そこから得られる気付きや情報を他職種の専門性へと的確につなぎ,そのフィードバックを生活に還元することなのです。
ちなみに,せんだんの丘はこの蓄積が実を結び,オムツは20数種類を使い分けながらも,100床で25万/月という支出に留まっています。どういうことかわかりますでしょうか? ひとりひとりに適切に必要なオムツを使用し,その結果として,オムツを使用しないケアができるようになっている証なのです。オムツ交換に追われないケアはさらにゆとりを生み,新しい生活環境を作る力になります。
これは,排泄という生活の一部を切り取った例の紹介です。他の生活にかかわる場面においてもさまざまな発見や成長が随所にみられるようになっています。ケアワーカーの専門性を追及することは,利用者?職員双方に良の循環をもたらすことになるのです。
◆3 ケアの質がもたらすものとは?
ケアの質がもたらすものは何か? 前述したオムツが良い例ですが,利用者の主体的な生活を促進する力になります。オムツをしたまま,レストランに行きたいですか? 買い物に行きたいですか?
自立支援とは,もっと本質的なことに緻密にかかわり,主体的に生活をしたいと思える環境を作ることであると考えます。さらに,ケアの質が上がることは,お金を生むということも5年間の積み重ねでわかったことです。このお金は,ケアワーカーたちの思い描く,環境作りへの投資の財源になります。法人が雇用環境の調整で金を捻出したり,補助金頼み,後付の制度改革への期待で新しいケアを作るのではなく,自分たちでお金を作り,自分たちの夢へ投資するという新しい形の福祉の概念を造り出すのです。
※次号では,リハビリ,栄養士,歯科衛生士等の職種の役割を紹介します。ご期待ください。