【学習サポート】
[臨床心理学] 臨床心理学を学んでいる皆様へ
―レポート作成と臨床実践の共通点―
講師 小林 愛
◆はじめに
今年度から「臨床心理学」を担当する小林愛です。よろしくお願いいたします。
通信課程で学ばれている皆様,レポート作成はいかがでしょうか。皆様の立場は実に様々であり,色々なご苦労がおありのことと推察いたします。
さて,私の専門は臨床心理学です。悩みを抱えた方の相談にのっていくことが仕事であります。その内容は,個別面接,心理アセスメント,グループ活動など多岐にわたります。このような実際の臨床活動に必要な能力とは何かを考えてみますと,心理学に関する基礎知識を学んでいることはもとより,物事を多面的に捉え多くの情報をまとめあげていく考察力や統合力,自らの感情体験を捉えそれを手がかりに相手を理解していく内省力,自らが知りえたことを相手に伝える表現力,心理テストをはじめとする所見を作成する文章力などがあげられます。これらは,レポート作成においても必要な力ではないでしょうか。しっかりとレポートに取り組むことは,実は臨床実践の基礎力を高めることにつながるものであると考えています。
そこで,臨床心理学を学ぶ皆様にとって,レポートを作成する上でのヒントになればと思い気がついたことを述べたいと思います。
◆臨床実践の中で生じる事柄
悩みを抱えた方の相談にのっていく過程ではどのようなことが生じるか考えてみます。相手から投げかけられた言葉(相談内容)に対し,客観的状況を把握していくことから始まります。それに伴い,“そのこころは”と言葉が発せられた心情におもいをはせていきます。そのような過程の中で,私自身の内面に浮かび上がってくる疑問やなんともいえない感覚などを大切にして,相談にいらした方の理解に努めていきます。限られた時間の中で,感じつつ考えつつ,考えつつ感じつつと,いきつもどりつの繰り返しです。このような事柄を,こころの中でしていますと,自然に言葉が沸き出てきます。時に言葉をはさみつつ,相談者との関係をつくりあげていきます。
このように,知的にも情緒的にもフル活動です。また,相談者のあり様もさまざまですので,常に試行錯誤の連続です。客観的?現実的な事柄をおさえつつ,内面では答えのはっきりしない曖昧さを抱えその過程に言葉をつけていく,そしてその過程を味わいつづけていく,そのような仕事であると思っています。
◆レポート作成と臨床実践の共通点
では,レポート作成と臨床活動の共通点は何かと考えてみます。
レポートの作成は,まず,課題をみて,何が求められているのかを知ることです。知るということは,課題に関連した事柄をテキストや文献等を調べてみることまでを含みます。実践では,相談者の主訴をうかがい,それにまつわる事柄をお聴きすることで,主訴の大枠を自分なりにつかんでいくことと重なります。次に,理解できたこと,疑問に思うことを整理していきます。そして,疑問に思ったことは文献にあたり,再度考えてみる。わからない時はまた文献に戻る。実践では,相手の大枠をつかむ過程で自分の中に沸き起こってきた疑問や感覚を手がかりに,いきつもどりつ相手を理解してくことにあてはまるでしょう。その時に,自らの日常体験ないし感情体験との繋がりを見つけていくことで,理解が深まることもあります。そして,そのような体験を経て,レポート作成となります。自らの理解を,一定の形式に添い相手に伝わるように表現していく過程です。臨床活動では個別面接やアセスメントのフィードバックの過程で求められる力です。そして,次にレポートの添削をうけ自らの理解の確認や修正につなげていく段階があります。実際の臨床でも,相手の反応,様子をみて,自らの見立てを修正していきます。
いかがでしょう。両者は実に似ているものではないでしょうか。
実践の場では,相手の話しを聴きながら,思考,感情をフル回転させて向き合っていきます。ただただ語られる事柄をお聴きしているわけではありません。レポート作成も,テキストに出てきた用語を写すのみではなく,基本を理解した上で,自分はそれをどう考え感じたのか,自らの頭で考え感じ組み立てていく,その過程をしっかりと体験していくことが,結果として実践の基礎力につながるものではないかと思います。
◆おわりに
レポート作成にはある一定の忍耐力が必要です。臨床実践もまさにそうです。相手の(そして自分の)なんともいえない,時に言葉にならない感情体験に向き合っていきます。それには,簡単に答えがでないことに耐える力が必要となります。
このように臨床の仕事は容易なものではありません。しかし,日々の学びと実践を積み重ねていく中に,思いもよらない発見や喜びがあります。生きていること,生きていくことの深みを感じさせられる体験との出会いもあります。それがこの仕事の醍醐味ではないかとも思っています。
レポート作成はなかなか大変なことと思いますが,皆様の試行錯誤を経たレポートにお会いできることを楽しみにしております。
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