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[心理学概論] 大学が大学らしくなった
佐藤 俊昭
「通信制の学生が入学してくれたお蔭で,大学が大学らしくなった」という感想を,講義のときにも,交流会のときにも話しました。その意味を少し詳しく説明します。
第1に大人の大学生だということです。18?19歳の新入生が主流を占める日本の通学制大学の新学期は,若さとエネルギーでまぶしいほどです。しかし,そのエネルギーが知識の獲得と探求に向かうかに見えるのは束の間で,やがては,学問とはかなり距離のある関心の方向に分散?流出します。大学受験の予備校と化した現代の高校生活を思えば,学生の人生にとって,教室の学問から一時離れるのは好ましいことです。大学総レジャーランド化と言われたことがありました。教室外の栄養をたっぷり吸収して教室に戻って来てくれれば,教員にとっても,学問の発展にとっても誠にありがたいことです。しかし,レジャーランドから教室に戻ることを忘れる学生がいることも事実です。その点,通信制の方々は,レジャーランドの単位はおそらくすでに取得しておられます。
第2に,大きな教室なのに,質問がよく出ました。ただし,質問の時間を設けたときです。設けないときは,講義の後や,キャンパス内で出会ったときに質問を受けました。そこで気がついたことですが,質問の時間を特に設けなくとも,疑問が生じたら,講義の途中でも遠慮なく出してください。英国の学生は講義の途中でも気軽に質問を出していました。それを嫌がる先生もいますが,私はその方がありがたいのです。特に,わからない話になったら,「わからない」といって欲しいのです。質問の出ない講義に慣れた私たちは,時間いっぱいしゃべりまくり,質問時間を残さない癖がついているのです。
第3に,教科書は地図です。スクーリングは教員という視聴覚装置をフンダンに使って,現地の様子をできるだけ生き生きと伝えるメディアのようなものです。いかに画像がよくできていても,現地の熱気や匂いまでは伝えられません。それは,各自が自分の体験や問題意識を総動員して,頭の中で現地の様子を構成するとき,限りなく現地の実情に接近できるのです。
地図だけで,現地がわかるはずはありません。勉強とは,教科書の文章を覚えることではなく,地図をはじめ,あらゆる手段を動員して,現地の様子をできるだけリアルに頭の中に思い浮かべようとする努力なのです。通信制の方々には,そのスタンスができているように感じました。
なお,専門用語は,学問領域の諸問題についてのコミュニケーションを効率よくするためにできたものです。したがって,専門用語を知ったことで,専門知識が身についたとは思わないでください。専門知識とは現地を思い浮かべることのできる力なのですから。