【学習サポート】
[誌上入門講義]
こころの健康と福祉 ?精神医学の立場から?
教授
佐藤 光源
●精神障害の捉え方
ここまでは総論的なことを話してきましたが,では精神障害をどのように理解すればよいのかという話に入りたいと思います。
精神障害者の理解には,3つのポイントがあります。1つは多次元モデルの活用,2つは医療と福祉の連携,そして3つは精神医療における生活モデルの普及です。
はじめに多次元モデルですが,これは精神障害を脳—心理—社会—実存という4つの次元でとらえることで,生物?心理?社会?倫理概念(Bio-Psycho-Socio-Ethical Concept,BPSE概念)とよんでいます。こころの病気は身体の病気と違って,みなさんがいま体験している「私の世界」のなかに現れます。それが心理的な次元です。この「私の世界」を体験するには舞台装置が必要で,それが脳の次元です。また,「私」は人や環境とのかかわりの中で生活しているわけで,それが「社会的な次元」です。そして,ただ生きているのではなく,生きがいにつながる各人固有の生き方,信条,価値観や倫理性をもって生きています。それが実存的な次元です。このように,こころとその病気を理解するには4つの次元に注目する必要がある,というのが多次元モデルなのです。
こころの問題を適切に理解しようとすると脳科学や心理学,精神医学,さらに社会?経済?文化や哲学など多くの学問領域の知識が必要になります。また,一人の人のこころの問題を解決するには,いくつもの領域の専門家が協力することが必要です。世界精神医学会のメインテーマ「手をつなごう,こころの世紀に」には,そうした願いが込められていたのです。学際的なクロストークや協力のもとで,こころ病む人の人生を幸せなものにしていかなくてはならない。そこに今世紀におけるこころの福祉の大きな発展の鍵がある,私はそう思っています。
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