【学習サポート】
[社会福祉援助技術] 2015年の高齢者介護
教授
高橋 誠一
2015年に,皆さんは何歳になっておられるだろうか。そして,何をされているだろうか。おそらく,福祉現場の第一線で活躍される方も多いだろう。今年の6月に厚生労働省老健局長の私的諮問機関が『2015年の高齢者介護』という報告書を出したが,高齢者福祉関係者の間ではちょっとした話題になっている。ひとつには,このような長期ビジョンは,戦後社会保障審議会が一貫して出してきたので,高齢者分野に限ったこととは言え,行政側から出てきたことの驚きである。もうひとつは,その報告書の内容である。
そもそも,なぜ2015年なのだろうか。実は,戦後最初のベビーブーマー,団塊の世代がみんな65歳を越えるのが,この年なのである。その意味で,象徴的な年だが,実際に高齢者介護の問題が深刻化するのは,彼らが後期高齢期を迎えるさらに10年後,2025年頃からだろう。そう考えると,2015年にはそれなりの意味があるものの,決定的な意味を見出しがたい。むしろ,団塊の世代の方に注目すべきかもしれない。
団塊の世代と言えば,学生運動がすぐに思い浮かぶ。学生運動と高齢者福祉と言えば,ちょっと強引かもしれないが,ぼくには,つかこうへいの脚本『初級革命講座 飛龍編』が思い浮かぶ。この本は,学生運動で活躍した学生たちが劇団を作って,かつて学園闘争で戦い傷ついた元機動隊員を老人ホームに慰問するという話である。芝居の見せ場は,かつての学生と機動隊員の壮絶な戦いであることは言うまでもない。こんなことを書くと,あるひとがちょっと漏らした言葉を思い出す。「団塊の世代が入ってくるようになったら,施設でも学生運動ならぬ,老人運動が起こるのでしょうか」。少なくとも,今までよりは消費者意識の高い高齢者が主流になっていくことは確かだと思う。そのような高齢者を,何よりも介護保険制度が前提としているのである。
報告書の中で注目されていることのひとつは,施設が地域に小規模多機能サービス拠点を作る構想である。小規模多機能サービス拠点は,小規模ながら通って(デイサービス),泊まって(ショートステイ),来てくれて(ホームヘルプ),住む(居住)ことのできるサービス拠点である。この拠点は,地域の中で在宅支援サービスと施設サービスが一体的に運営されるという意味で,新しいサービス形態である。
この構想が今後どのように具体化されるかはまだ不明であるが,ポイントは施設と在宅の垣根を低くすることである。すなわち,施設介護か在宅介護かの選択ではなく,在宅介護と施設介護が融合した形を地域の中でどう作っていくのかということである。そう考えると,施設と在宅サービスが分かれている現在の介護保険とどう整合性をとっていくのか,課題はつきない。
報告書は,厚生労働省のホームページで見ることができるので,高齢者福祉に関心のある方には,是非ご覧になっていただきたい。ところで団塊の世代の方々は,このような動きをどう見ておられるのだろうか。無論,団塊の世代だけでなく,皆さん自身にも考えていただきたい。
「2015年の高齢者介護」のホームページ
http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/kentou/15kourei/index.html