【学習サポート】
[家族心理学]
家族の発達段階 —年賀状に見る家族の課題—
講師
西野 美佐子
本学の福祉心理学科が開設されてから,すでに30年を経過しようとしています。創設当時の学生たちも,すでに社会の中枢で働き,家庭では子どもが成長し成人式を迎える年齢に達しています。卒業生たちからの毎年の年賀状と日頃接する学生の姿から,家族の発達段階と課題を概観してみましょう。
大学で20歳前後の学生を相手に話していると,大学生活で勉強や就職?進路以外の関心事といえば,恋愛のことである。そして,卒業後しばらくして結婚の知らせを受け取ることも多い。卒業の時が危機で,結婚にとっての第一関門となる。大学での勉強を活かして仕事優先で生きるか,恋愛をとるかである。両方ともうまくゲットしたつわもの娘もあり,資格を生かした仕事を優先して,離れ離れとなりそのまま別れてしまうカップルもある。最近は,自分の仕事優先で夫となる伴侶探しは仕事場で見つける現場調達派も少なくない。大学時代は先輩後輩の恋人同士でも,先に卒業した方から別れを告げられ,慰めてくれた同級生といったん恋仲になりながら,「このままだと私はわがままで自分の嫌いな女になってしまう」と思い悩んだ末別れて,職を得た地で別の伴侶にめぐりあえた人がその典型だろう。生まれ育った家族から離れて大学生活をはじめ,さらに職を得て経済的にも自立すると一挙に結婚のときが訪れるようだ。新しい家族形成期,そして新しい家族メンバーの誕生と子育ての時期が続く。
子育てまっただなかの卒業生の年賀状には,子育ての忙しさと楽しさの感想と同時に家族写真が掲載されており,家族の歴史が一年に一枚の年賀状に積み込まれて我が家に届けられる。1年毎に,家族メンバーが増え,子どものめざましい成長の姿に驚かされる。
卒業生たちの家族も,例外なく,そのライフコースを通して一定の諸段階を経過して発達している。子どもが小学校高学年や中学生ともなると,年賀状に子どもの写真を載せる人は少なくなり,文面から家族の様子を垣間見るだけとなる。その頃になると子どもは子どもたちの世界に身を投じるようになり,親たちも自分たちの生活に眼を向けることができるようになるかららしい。「仕事を通して生かされている自分を感じます」など仕事再発見の感想へと変化する。私の大学時代の友たちからの年賀状には,第一の職場の退職挨拶から,黒子?白次?ポン子などペットの名前をくっつけてくるものまであり,子育て卒業後の夫婦で向き合う生活の姿がにじみ出ている。あるいは,孫のために長年続けてきた仕事をやめ保育園の送迎を日課とする祖母役割に専念している便りも届いたりする。私の年賀状はと言えば,前年旅行した時にとりためた風景写真の中の一枚をデザインして載せているが,これも子育て終了した人に多いようだ。
家族発達の各段階にはその段階固有の生活現象があり,すべての家族成員に適応と変化を求める新しい課題があるというが,以上見てきたように年賀状からも家族の目下の課題が彷彿しているからおもしろい。親たちもかつては子どもであり,成長して親となり子どもを育てている。子育てとは,世代の違うもの同士が出会う場であり,そこでの「共振する体験」こそ意義があるのだろう。
とりとめもない話の終わりとして,家族の消滅について述べよう。
毎年,私の実家の庭には秋海堂の花が咲く。この花は,母が好きな花だった。葉の左右の大きさが異なり,そこから花言葉「片思い」が生まれたのだろう。私の母は,九年前に病を宣告されてからわずか4カ月あまりの短い闘病生活の後亡くなり,そして一昨年父も亡くなった。両親は亡くなってはいるが,何かにつけ私のこころに日々蘇ってくる。つきない父母への思いは,秋海堂の葉の如く,片思いとなったが,私が生きている限り,父母は生き続けていると言えるだろう。