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VOL.26 MARCH 2005

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[臨床心理学特講ほか] 私の研究歴

教授
宇田川 一夫

◆臨床心理学という学問の特徴

 「私の研究歴」というタイトルで『With』に書いてくれと依頼がありましたが,「私は,今までこのような研究をしてきました」と書きつづることは「怠惰な私」にとって抵抗があるので,研究に関連したことを「つれづれなるまま」にしるしていこうと思います。
 私は,心理学の中で臨床心理学という領域を専門としております。
 私が,臨床心理学を学び始めた頃は,臨床心理学は心理学の中でも亜流でした。国公立や私立大学の中でも臨床心理学の講座が開かれていないところもありました。その理由は,臨床心理学は,心理学の中で非学問的領域であるとの評価が底流にあったからです。また,臨床心理学を置いている大学でも基礎心理学系と臨床心理学系のスタッフの間は,あまりいい関係でない傾向にありました。
 私が大学院在学中に就いた先生は,心理アセスメントは専門でしたが,心理療法はそう得意ではありませんでした。そのため,他大学院(女子大にも通いました)やいろいろな研修会に参加して欠けている領域を補いました。当時の臨床心理学を専攻する大学院生はそのように学んでおりました。私は,ある先生の研究会に継続的に参加しておりましたが,そこに集まった院生は,いろんな大学院から来ておりました。事例検討会でお互いにケンケンガクガクと言い合ったことは,その後の臨床活動の宝となっております。
 昨今の臨床心理士養成のための指定大学院の発展をみるとウソのような研究状況といえます。

◆心理学の中の臨床心理学

 臨床心理学がなかなか学問に成りにくい要因としては,人間の心理や行動の一部だけを取り出して,研究の対象とするのではなく「人間全体」を対象としているからです。そのことは同時に研究が難しいことも意味しています。人間の「全体のこころ」を「科学的」,「合理的」に説明できるようになれば,臨床心理学もより一層発展するでしょう。
 物理学の一分野である「量子力学」では,光は「点」でもあり,「線」でもあると言われています。学問の中でも最も論理的,合理的な物理学でも光は,「点=線」であると同時に「線=点」であると,一見矛盾するような論理が,最も論理的であると説明しております。
 臨床心理学は,クライエントと言われる人の「心理アセスメント」と「心理面接」から発展をしてきた学問です。時としてクライエントと呼ばれる人は,心理的意味で「1+1=3,4,5」であると答えます。
 臨床心理学では,「3,4,5」と答えた人の心の中でどのような心理的働きがあったのかを「アセスメント」します。そして,「3,4,5」の心理的世界に付き合い,「2」の世界に向かって心理的な旅(心理面接)をします。

◆心理アセスメントと心理面接

 心理アセスメントのひとつの領域に心理検査があります。心理検査には,いろいろな種類がありますが,私が興味を抱いているのは,「投影法テスト」と呼ばれる領域です。具体的には,ロールシャッハ?テスト,SCT,H-T-Pテストなどです。
 心理面接にもいろいろなアプローチがありますが,今はクライエントに役に立つと思われる面接方法を自然に使い分けているようです。したがいまして,「何派ですか」とよく尋ねられますが,その意味では「自己流」なのかもしれません。ただし,心理面接は,あるアプローチをひとつ自分のモノにしておかないでクライエントに接することは,両者にとってとても危険なことと思われます。未知の洞窟に命綱を持たずに入り込むのと似ており,両者共遭難する危険性があります。
 心理アセスメントも心理面接もスーパーバイザーについて,初めてモノになります。そして,それに基づき日々の臨床活動から自分の研究が始まります。

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