【ひろば】
インタビュー ボランティア体験
福祉関連の職場を知らない方は,まずボランティアを通じて現場の雰囲気を知るのが一番です。精神保健福祉分野の仕事とは無縁だった学生の方が,ボランティアをやってみての感想をお話しいただきました。
●福祉心理学科 秋田市在住 池田悦子さん
Q なぜ,精神保健福祉士をめざそうと思われたのですか。
A 3年ほど前に,町内の役員会で「精神障害者は危険で怖い存在だから社会に絶対に出ないように隔離しておかなければ我々は安心して暮らすことができないよな」「まったくだ」という発言を聞きました。当時は池田小学校の児童殺傷事件で容疑者が精神障害歴のあることが報道されたため,とくにそんな発言が多かったかもしれません。
私は以前老人福祉施設に勤務しており,その多くが交通の不便な「山の中」にあることに対し非常に疑問をもっていたため,その時「なんかおかしい」という気持ちを強く持ちました。それに町内には行き場がないため1日中家の中に引きこもっている精神障害の方もいらしたのです。そんなこともあり,精神保健福祉の分野に関心を持つようになりました。
Q 最初は,どんなことから始められましたか。
A たまたま保健所主催の「精神保健福祉ボランティア講座」が開催されることを新聞で知り,応募しました。開催期間は週1回の2カ月間でした。内容は医師による「病気への理解」,精神保健福祉士による「地域住民としてのかかわり方」,家族会の代表者による「ボランティアに望むこと」,ボランティア活動をしている人の体験談,それに精神病院?作業所?援護寮,デイケアの見学や体験などでした。
その中で強調されたことは,医師の「精神疾患は誰でもかかりうるもので特別な病気ではない」ということ,精神保健福祉士の「精神障害者が地域で普通に暮らしていけるには正しい知識を住民が共有していくことであり,ボランティア活動を通して広めてほしい」ということ,家族会の方の「ボランティアの方は何かしよう,なにかしてあげなくてはと思わなくてもいいです。ただそばにいてくれさえすればそれでいいです」ということです。
Q 社協や保健所のやっているボランティア講座は,初心者には不安も解消されるし,勉強になりますね。
A 講座の中で教えてもらったこともあり,体験ボランティアや実際に活動を始めたときも全くといっていいほど違和感なく利用者の方々に普通に接することができました。ただ,古い造りの病棟をそのまま使用している病院を見学したときは,「これでは治る病気も治らないのではないか」「正常な人もおかしくなってしまうのではないか」とその環境の悪さに大変なショックを受けました。
Q いまは,どのようなボランティアをされていますか。
A 現在,私は自宅近くの精神病院のデイケア(主な症状が消失し,日常生活がほぼできるようになっていても対人関係,就労など生活に悩みを持つ人たちの外来治療を行っています。そのため,就労や家事をしながら利用されている方もいます。つまりは,回復途中にある精神障害者の社会復帰の促進を図るため,生活指導や作業指導等を行っているところといえます。)のボランティアをしています。この活動先は保健所からのボランティア受け入れ先の紹介で知りましたが,他にも社会福祉協議会やボランティア協会から情報を得ることもできます。
私の活動内容は,利用者の方と共にするカラオケ?ゲーム?手芸?パソコンでの年賀状づくり?買い物?ボウリングなど院内活動から院外活動までいろいろです。昨秋からは医師?臨床心理技術者?作業療法士?利用者?ボランティアなどが一緒のテーブルにつき,「何でも話せる会」に参加しています。そこでは,「今朝の食事は○○だった」とか,「温泉で知らない人と一緒に入浴したときどうしたらいいのか」「統合失調症のことを詳しく教えてください」など,どんなことでも話すことができます。私自身はそこでロールプレイへの参加や自分の考えを述べることもありますが,利用者の方々の切実な思いの一端を知らされます。プライバシー保護の観点から具体的には言えませんが,将来への不安,親や兄弟姉妹との軋轢などなど病気のために背負わされた生きにくさの現実です。
Q ボランティアをされてこられて,どんなことをお感じですか。
A これまで精神保健福祉ボランティア活動を通して感じることは,気負うことなく,構えることなく,隣人に接するように,ごく普通に接することが大切ではないか,ということです。家族会代表の方が話されていた「ただそこにいるだけでよい」ということは精神保健福祉ボランティアの原点ともいえるものではないかといつも思います。
デイケアでの私の第一声は「おはようございます」や「こんにちは」です。挨拶は大切なコミュニケーションの第一歩だと考えております。
どうもありがとうございました(インタビューした結果をもとに,池田さんに文章もまとめていただきました。厚く御礼申しあげます)。