はいみなさん、お疲れさま。

この遺教経というのは、私もかなり読んでいるんですけど、法要の時にこれだけ読んだっていうのは初めてのことです。これだけ長いものを皆さんが声をそろえて読んだっているのは、すばらしいことだと思います。

私はものを書くときによくこの言葉を使っているんです。「我は良医の病を知って薬を説くが如し。服すと服せざるとは医の咎にあらず」という言葉があるんです。私は良医でも何でもないんですが、「この薬はこういう効力があるんですよ」と良医が説く、しかし、その薬をのむかのまないかは、その人によるんです。

それから、われわれが反省しなければいけないのは、「善く導く者の人を善道に導くがごとし」という言葉があるんですが、これは、自分ができないことを人に押し付けたって絶対にできないんです。よく高校の先生が、自分は煙草吸ってるのに生徒に「お前煙草やめろ」なんて言ってますけど、これは自分がやめてから言わなきゃだめなんですね。

で、今日はまさかこんな長いものを全部読むとは思わなかったんです。自分自身、読みながら感激していました。難しくて何言っているのかわからなかったと思うんですが、「別人の面に瞿曇の眼を掛け」、これは道元禅師が一二四六年、寛元四年の二月の十五日、涅槃会の上堂に際して言った言葉なんです。何を言っているかということを少し説明しておきたいと思います。

道元禅師が上堂されて、お説教しました。今日は涅槃会である。お釈迦様がお亡くなりになった日である。すべてのものたちが泣いている。すべての動植物も来て泣いている。その後で道元禅師は四句の偈を作ったんです。訳すと大体こういうことです。「他人の顔に釈尊の眼をつけて、仏法の理解を借り物としている。そして、そのようにするから、釈尊がお亡くなりになったということを単なる死ととらえる。手で胸を叩いてむなしく悲しんでいてはならない」。遺教の中で、「会ったら必ず死に別れるんだ」という。われわれは右往左往しちゃうんです。右往左往しちゃってるけど、そんなことだから苦しむんです。せっかく仏にお会いしたのに、そんなことでは仏を探し回ってしまう。それじゃだめだってことを、偈頌をもって示したんです。

「別人の面に瞿曇の眼をつけ、手を打って胸を打ってむなしく怏々としている…」。われわれは仏の死を悲しむだけではなくて、きちんとその死を涅槃として捉えなくてはならない。そういうことを道元禅師はおっしゃっておられるのです。ということで、今日は長い仏遺教を全部読ましていただきました。こういうことはあまりないことで、ありがたいことだなと思います。ありがとうございました。