本日は達磨忌です。こちらのご本堂で申しますと、ご本尊のお釈迦様の左手側にお祀りされております。ご案内の通り、お釈迦さまから始まって第二十八代目、西天二十八祖菩提達磨大和尚さまは今からおよそ千五百年前のお方であります。無門関第四十一則「達磨安心」にかくその要旨がございます。

インドからはるばる中国へやって来られた達磨大師さま、その日も雪の降り積もる中、坐禅に黙々と打ち込まれておりました。そこに二祖となられる慧可という者が現れました。左の臂を断ち切り決意のほどを見せた上で、思いつめたその言葉でこう問いかけました。「大師よ、どうか私の不安な心を取り除いてください。」しばらくの沈黙の後、「そうか、わかった。ならばその不安という心を私の前に差し出しなさい。」慧可はその時、どのように我が心、形のないものを差し出すか迷い、困ります。「大師さま、どこを探しても私の心をこう差し出すという所は見当たりません。」するとその言葉に達磨大師さまは「そうか、それがわかったか。もうそなたの心は救われたのだよ。」こうお示しになったという趣旨であります。

今、コロナの不安な時代、現代の私たち自身も、生きる上で不安のただ中におります。時に先がまったく見えないこともあります。しかしこんな時代だからこそ、達磨大師の教え、わが心をしっかりと見つめ、そしてよくよく考えてみますと、「不安というものははじめからどこにもなかったんじゃないか」、「そもそも心とは何か」、そんなところから問い詰めていくと、意外と、安心できる道標が見つかるかもしれません。

時代は下り、道元禅師は、達磨大師に始まる坐禅の心をこう歌われました。「濁りなき心の水にすむ月は波も砕けて光とぞなる」。心静かに研ぎ澄ませ、時に心の水はさざ波立つこともあるかもしれません。波になった時、天の月の光は小さな一滴にも宿るがごとく、それは光となってこの世を照らすこともあるのです。

濁りなき心の水にすむ月は波も砕けて光とぞなる